次世代応援企画「break a leg」
「break a leg(ブレイク ア レグ)」とは、これからパフォーマンスを始める人に向かって 「成功を祈る」という意味で用いられるフレーズ。本事業では、若手表現者に会場を提供し、 次代を担う才能の発掘・育成を目指します。 新風を吹き込んでくれる表現者たちの競演にご期待ください。

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アイホールでは、昨年に引き続き、「次世代応援企画break a leg」を開催いたします。
演劇・ダンスの分野で自ら若手と任ずる団体を全国から公募し、次代を担う表現者の発掘・育成を目的とする本企画。2年目となる今年は、枠にとらわれない多様なスタイルで関西を中心に全国でパフォーマンスを展開する劇団子供鉅人と、独自の言語感覚を進化させたライトな不条理劇で、地元・名古屋にとどまらず人気急上昇中のオイスターズの2団体が選ばれました。
劇団子供鉅人代表、作/演出・益山貴司(ますやま・たかし)さんと、オイスターズ作/演出・平塚直隆(ひらつか・なおたか)さんに、劇団や今回の上演作品について、アイホールディレクター・岩崎正裕がお話をうかがいました。

■「次世代応援企画break a leg」について
岩崎: アイホールが開館してから20余年が経ち、当時「若手」と言われていた劇団が「中堅」となってますます精力的に企画を持ち込んで下さり、おかげさまでホールではほぼ毎週末、何らかの公演が行なわれております。しかし一方で、このままではラインナップや客層が固定化し、アイホールと若い人たちとの演劇状況が離れてしまうのではないかという危惧がありました。そこで、若い才能との出逢いを意識的に創ろうと始動しましたのが、「次世代応援企画 break a leg」です。
第一回となる昨年は、baghdad café、双子の未亡人、冨士山アネットが公演し、それぞれ独自の方法でアイホールを活用した舞台を作り上げ、好評を得ました。劇団にとって良い刺激になったと思いますし、普段あまりアイホールになじみのないお客様にもたくさんお越しいただきましたので、企画として手ごたえを感じ、継続することになりました。
続く本年は、応募総数13団体の中から2団体が選出され、5月24日(金)〜26日(日)に劇団子供鉅人『モータプール』、7月5日(金)〜7日(日)にオイスターズ『日本語私辞典』が上演されます。
  
■劇団子供鉅人について
益山: 劇団子供鉅人・代表の益山貴司です。劇団では、作・演出、俳優をしています。
2006年の旗揚げ以来、子供鉅人は「大阪を拠点とする劇団」をうたっておりますが、実は私自身は演劇人との関わりが薄いんです。高校時代は演劇部でしたが、所属は映像デザイン学科で写真や映像について学んでいましたし、他の部員も、美術や建築学など色々な学科の生徒が入り混じっていました。また、私の自宅である、谷町六丁目にある築百年の民家でも演劇公演を続けていたのですが、そこではライブなども行なわれていましたので、どちらかというと演劇よりも、音楽やアートの関係者との繋がりが強いんですね。
高校時代から、そうした異分野の人たちと作品を創る土壌がありましたので、スタンダードな会話劇以外にも、バンドと組んで歌って踊る音楽劇を作ったり、たまたま知り合った海外のアーティストと一緒にヨーロッパを巡業したりもしています。また、劇場だけに縛られずどんどん外へ飛び出して行こうという意識も強く、民家、映画館、倉庫での公演や、あるいは此花地区の空き家をめぐるツアー演劇などもしました。このように、あまりにも節操なく色々なジャンルや場所で活動を行なっているので、私自身も劇団の全容を説明するのが難しいほどです。
■『モータプール』について
岩崎: 劇団子供鉅人は、きわめてバラエティ豊かな作品を送り出し続けていますが、今回上演していただく『モータプール』は、どのような舞台になるのでしょうか。
益山: 「モータプール」とは、関西だけの言い回しだそうですが、「駐車場」のことです。
私の住んでいる谷町六丁目や空堀周辺は、空襲をまぬがれた古い家屋が多いため、近頃どんどん取り壊されていて、私が気に入っていた近所の空き家も、急に解体され、駐車場になってしまいました。その車停めの白線を眺めていると、それがまるで元々そこに建っていた家の間取り図のように見えてきて、とても演劇的だと感じたことが、今回の作品を創るきっかけになりました。
最初から完成した台本を用いず、舞台上で俳優たちと「この白線が何に見えるか?」とアイディアを出し合うワークショップ形式の稽古を重ねて、少しずつ作りあげて行きました。駐車場の白線を、時には家、時にはバレーボールコート、時には古代の王家の墓に見立て、時空を超えてイメージを繋ぎながら、幻想的な世界を立ち上げます。
また今作では、東京のダンスカンパニーBATIKの黒田育世さんに、振付・俳優として参加していただきます。真っ黒な舞台に白線が引いてあるだけのシンプルな美術なので、とりわけ身体表現に力を入れています。黒田さんは全身全霊で踊るような作風ですから、稽古でもどんどん俳優の身体を追い込んでいます。15分くらい身体を動かし続けているうちに、感情が高ぶって、泣き出してしまう俳優もいるほどです。しかし、私自身はあくまで演劇作品にしたいので、私の台詞と黒田さんの振付をどう融合させていくか、音楽の松本じろさんも交えて、道を探っています。
ちなみに、この作品の主な舞台は大阪の森之宮で、タイトル同様、脚本も関西弁で書いております。大阪人だからこそできる濃密なコミュニケーションが描けると思うのですが、他地域から参加している俳優にとっては関西弁の発音が耳慣れず、まるで音楽のように聞こえるそうです。この方言特有のリズムに、身体的な動きでアクセントをつければ面白いんじゃないかと考えています。
言葉を必要としないほどの身体表現と、言葉を用いざるをえない瞬間とが、俳優の中でせめぎあう様に注目していただきたいです。
岩崎: 劇団子供鉅人がBATIKの黒田育世とタッグを組み、総勢23人のパフォーマーとともに、言葉と身体を武器に作り上げる、幻想的でダイナミックな舞台に期待が高まります。
では、つづいてオイスターズの平塚さん、お願いいたします。
■オイスターズについて
平塚: オイスターズの劇作・演出を担当しております、平塚直隆です。
僕はもともと、名古屋で、北村想さんの主宰するプロジェクト・ナビで俳優をしていましたが、劇作にも興味があり、劇団の解散を機に、戯曲塾に通い始めました。初めて書いた戯曲で、北海道の戯曲コンクールの佳作をいただいたことで、本格的に劇作家を目指すことになり、その後も上演はせず、ひたすら戯曲を書いてはコンクールに応募することを繰り返していました。
ところが、何度書いても佳作止まりで、なかなか大賞に手が届かない。もちろん自分の力不足でもあるのでしょうが、やはり実際に上演してみないとダメなのかもしれないと思い、僕の戯曲を上演するための劇団として、2005年に「ジ・オイスターズ」を結成しました。当初は、僕と同じ昭和48年生まれのメンバーだけを集めていたんですけど、その制限を外して若い子も入れることになった2008年、現在の「オイスターズ」に改名しました。劇団名の由来は、僕自身が牡蠣が好きなのと、「よく当たる」という“験かつぎ”です。しかし、実際に公演をしてみても観客動員は伸びず、相も変わらず、書いて上演しては戯曲賞に応募するという形で、名古屋で細々と活動を続けていました。
二年前、ついに『トラックメロウ』で劇作家協会新人戯曲賞に選んでいただきました。目標にしていた賞のうちの一つでしたので、ようやく少し自信がつき、そこから名古屋以外の都市でも公演を行うようになりました。すると、不思議と名古屋でも動員が伸びはじめ、ここ最近は精力的に活動しています。
関西での公演は、今年4月の京都に引き続き2度目となります。アイホールは、プロジェクト・ナビ時代によく公演させていただいており、いつか自分の劇団を持ったら一度はここで、と思っておりましたので、今回、break a leg参加団体に選んでいただき、またひとつ夢が叶いました。
■『日本語私辞典』について
岩崎: 平塚さんの作品は、一貫して台詞劇で、関西にも東京にもない、ナンセンスとストイックが同居した独特の世界観が魅力ですが、今回上演していただく『日本語私辞典』も、その要素が顕著に表れていますね。
平塚: 『日本語私辞典』は、昨年、日本演出者協会が主催する若手演出家コンクールで、最優秀賞をいただいた作品です。主人公の女の子が、ストーカーと思しき男を消すため、まず“す”という文字を消すところから始まり、彼女が朝起きてから夜帰宅するまでの日常を描く中で、少しずつ文字が消え、7日間で世の中から文字が全部なくなってしまうという物語です。不条理コメディですが、「文字が消えていく」という設定以外は、ごく日常的なお話です。
作品のアイディアの元になったのは、僕の好きな作家・筒井康隆さんの『残像に口紅を』という小説です。「小説の文面から文字がどんどん失われ、それに伴って現実世界からも、その音を含む名を持つあらゆる存在が消えていく」という物語で、それを読んだ時から、自分でも一度こういう話を書いてみたいな、と思っていました。また、執筆当時は、「なぜ自分は他の誰かではなく自分なんだろう」とか「肉体がなくなったら僕は別の誰かになれるのか」などということを、理由もなくただひたすら考えていて、この考えと、言葉が消えていくことを絡めて台本を書こうと試みました。
オイスターズでは、これまでもずっと会話劇を創ってきました。徹底的に言葉にこだわり、身体表現はほとんど重視していません。そのような劇団が今回、つぎつぎ文字が消えていく中でどれだけ言葉を駆使し、台詞を紡いでいけるのかに挑戦します。舞台後方に、ひと枠ごとに一字ずつ五十音の文字が書かれた障子があり、そこから消えた文字はもう使えなくなります。観客にも、どの文字が残っているのかが分かりますから、俳優は台詞を一字一句間違えられませんし、何か突発的なことが起きても、不用意に声を上げることもできません。観客の皆さんには、この緊張感を舞台上の俳優とともに味わい、楽しんでいただきたいです。
岩崎: 日本語が五十音で成り立っていることに着目し、障子と明かりを使用して、不条理な言葉の世界が、空間的にも見事に立ち上がっています。使用できる言葉が徐々に限られていく、厳しい制約の中でのスリリングな芝居にご期待下さい。
■break a legの今後
岩崎: 今年の「次世代応援企画break a leg」は、以上2団体の作品をお届けいたします。
また、本企画はすでに次年度参加団体の募集も開始しております。劇場ごとに公演団体が固定化する、一種の「棲み分け」状態を打破し、関西の演劇シーンに刺激を与えようと始まった本企画ですが、思いのほか全国各地から名乗りが上がり、若い人たちの機動力を実感して大変嬉しく思っております。若手の皆さんには、ぜひ地域を越えてアイホールに集い、中劇場の設えも可能な空間で、どんどん新しいことに挑戦し、関西の舞台芸術を盛り上げていただきたいです。


(2013年5月9日 大阪市内にて)


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