AI・HALL共催公演として、ハイバイが2014年11月15日(土)〜16日(日)に『霊感少女ヒドミ』の上演を行います。
 作・演出の岩井秀人さんに、作品についてお話いただきました。


■プロジェクションマッピングとの出会い
 劇作家として僕は最初、自分のことや、自分の身の回りの話を書くことからスタートしました。そのあと、自分の家族の話を書き、さらにそのあとに自分の外の話を書き始めました。現実の中で、「起こりえなさそうなんだけど起こってしまったこと」とか、「普通に生きている人たちにも、もしかしたら起こるかもしれないこと」みたいなものを好んでつくっていたんですが、今度持ってくる『霊感少女ヒドミ』という作品は、ちょっとイレギュラーなものです。
 僕が自分の話を書くことに若干迷っていた時期に、<プロジェクションマッピング>というものを知りました。僕は映画が好きなんですが、映像の世界ではプロジェクションマッピングという手法がかなり使われています。ビョークとかローリングストーンズのPVを作っているミシェル・ゴンドリーという監督がいて、その人がこの技術を使って映像をつくっていました。実際は、ただの白いパネルなんですけど、映像を投影することで、美術があるように見える。(『霊感少女ヒドミ』の映像を見ながら)あのカーテンもないし、本棚もないし、額縁もソファも実際にはありません。これを演劇に使うと、実体の人間と映像の人間というのは、(舞台上に)同時に存在することになるので、そうすると存在がハーフになる…半分しかこの世に存在していない、みたいなことになると僕は思っています。

■幽霊と恋愛
 僕は元々“引きこもり”だったということもあって、この「生きているんだか死んでいるんだかよくわからない」状態みたいな時期が結構ありました。そういうものを書こうと思っていたんですが、そうするとあまりにも暗くなりすぎる気もしたので、単純に「幽霊」を登場させました。「幽霊」というのは、「自分の存在が自分で認識出来ない人」というふうに変換されて書かれています。
 このお芝居は恋愛の物語なんですけど、メインになっているのは、「霊感少女ヒドミ」という実体のある生きている女の子です。この子自身も、自分の生きている実感をあまり持っていない。で、この子の部屋に居着いちゃってる幽霊が二人います。その幽霊たちがヒドミのことを好きになってしまう。幽霊界には掟がありまして(笑)、生きている人間に愛されることが出来ると、人間の身体を手に入れることが出来るんです。僕は、愛されたい人に愛されない限り、この世に存在している感覚が本当にハーフになりかねないと感じているので、それの書き換えになっていると思います。ヒドミ自身は、生きている人間の男の人に恋をしているんですけども、その恋は叶わないという状態になっています。ヒドミのことを好きな幽霊…ニジローとサブローというんですが、その二人が何とかヒドミに愛されて人間の身体を手に入れようと画策する、みたいな話の展開です。

■舞台となった町に感じていること
 この話は福生(ふっさ)という町が舞台なんですけど、この町は東京の西のほうにあって、ものすごく大きな米軍基地があります。どこの米軍基地でもそうなんですけど、中の人は好きにしていいけど、日本人は出入りしちゃいけないんですね。村上龍がデビュー作『限りなく透明に近いブルー』の舞台にしたのはこの町だったと思います。そういう、確実に占領されている町というか、独立しきれていない感じというか、(全面的にではないですけど)そういうのが日本といえば日本という感じがして…。その町で育った女の子が、町ごとアイデンティティを失っているみたいな感じが、僕はすごくエロいと思うんですね(笑)。そういうことを、たぶん書きたかったんじゃないですかねえ。自分がなぜその台本を書いたかというのは、再演を繰り返さないと、「ああ、こういう意味合いで書きたかったんだな」というのがわからない。
 僕は、自分の半分を失わないと引きこもりの状態から出てこられなかった。そのまんまの自分では出てこられないんですよ。この人格じゃダメだなという決定的な何かを与えられるから、家を出られなくなるんです。僕、高校に三つ行ってて、三つともやめてるんですけど、そのたびに「キャラクターを変える=キャラ変」して失敗してるんです。それで最後にキャラ変した、かなり豪快なキャラが上手くいって、今になっているので、元の性格がどれかと言われると、本当によくわからないんですよ。これが絶対自分だとか、自分は絶対変わらないとか、まったく言えないという感覚があります。どれだけ信念を持っていたものでも、目の前の人に「えっ本当に?」と言われたら、「いや別に…」って思っちゃうような(笑)。もっと「自分」を持って立ってりゃいいのに、だけどそうもいかない…という感覚を、僕はこの福生という町に、勝手に持っているんです。

■映像について
 初演は八年前(2006年)だったんですが、そのあと僕はずっと自分の身の回りの話を書いてきたので、この作品を再演しようという気持ちにはあまりなっていなかったんです。ところが、『ある女』(2011年)という作品をやったときに、ムーチョ村松という奇才が、映像の担当として現れました。この人は「大人計画」とか「阿佐ヶ谷スパイダース」、「ウーマンリブ」など、舞台映像を専門につくっている人です。この人に映像をつくってもらったときに、映像がただの映像ではなく、ものすごく情報量が多いんだけどそれが全部拾えて、しかも、格好いいだけじゃない素材の選び方で、それに僕は感動しまして、この人に『ヒドミ』の映像をちゃんとつくってもらいたいという思いが生まれました。それで二年前(2012年)、三重と東京で再演をやりました。
 僕は最初、プロジェクションマッピングというのが新しいと思って上演をしたんですけど、観終わったあとのお客さんの感想では、プロジェクションマッピングという言葉とか、映像がどうこうという意見がなかったんですね。自分の恋愛の話だったり、自分の記憶とか経験とか、そういうものをすごく思い起こさせられたというものが多かったんです。そういう感想というのは、僕が演劇をしているうえで一番大事だと思っているものです。演劇として新しいとか、格好いい演出だったとか、そういうのではなくて、観た人が自分の生活や体験や記憶をもう一度洗い直せるようなもの、つまり観終わったあとにいきなりお客さんが自分の話をし始めるような、そんなものが僕は優れた演劇作品だと思っています。だから、この『ヒドミ』の感想を聞いて、「この作品はこれから再演していってもいいな」と思って、再演をすることにしました。

■プロジェクションマッピングで出来ること
 プロジェクションマッピングでは、小説的な表現が出来るというか…例えばこうやって二人で話していて、何か傷付くようなことがあったときに、この傷付いた側の人間の頭の中のことをクローズアップ出来る、グーッと頭の中の映像に入っていくようなことが出来るなと。美術はひとつもなくて、映像の中から実体のパンティを取り出したり、あとは場面転換のときに場所や時間を飛ばすのに、ちょっと強引なことが出来る。ただ大変なこととして、俳優があまり前に出てくると、影がすごくでかくなっちゃうので、みんな壁際で必死で演技をしてます(笑)。

■質疑応答

Q.映像は前回のものを使うんでしょうか? ほかに前回から変わるところはありますか?
A.映像は前回のものをまったく使わないと思います。ただ、舞台となる福生の周りの写真なんかはもしかしたらそのまま使うかもしれません。僕がムーチョ(村松)と共同で大きく変えそうなのは、映像と役者を同期させる部分、(映像で映す)美術と役者のカラミの部分ですね。ほか、機材やセットは変わらないですね。ただ、香川県の公演に関しては、県庁舎に映像を当てる可能性がすごく高いので、プロジェクターの数が倍になると思います。プロジェクターの位置と、パネルの位置というのは、完全に決定されているんです。撮影した角度と同じ角度で映し出す、ということをやらなくてはいけないので。その仕掛けが取れるところだったら、どこでも出来るんです。ただもう、香川県庁舎はどうしよう、っていう感じです。「映し出してくれ」って言われたから「はい」って言って見に行ったら、すごいデコボコ(笑)。プロジェクターは単純に、デコボコなところが苦手ですからね。それから物語も変わらないです。僕は再演をやるときには、全く違うものをやっちゃダメだと思っています。本当にバージョンアップになっていることしかやっちゃダメだと思っていて、「この作品が面白かったから次は友達連れてこよう」って思った人には損させちゃいけない、約束を破っちゃいけないという感覚があります。

Q.なぜ主人公の名前は「ヒドミ」なんですか?
A.初演で「ヒドミ」を演じたのは、僕の妻なんですけど、彼女が「ヒロミ」という名前なんです。彼女は普段の喋り方がちょっと変わっていて、声帯の開きが横に広いというか…。だから常に怖い話をしているみたいな、ずっと鼻濁音になり続けているみたいな喋り方なんです。で、彼女の一人称が「ヒドミ(ヒロミ)ねー」(笑)。それで「ヒドミ」になりました。このタイトル変えてもいいんじゃないかって気が、今しましたけど(笑)。まあ、でも軽いホラーには丁度いい、抜けた名前かなって気がします。これ、怖い話だとしても「絶対怖くねえな」というオーラがいっぱい出てる気がしますね(笑)。

(2014年9月 大阪市内にて)



【共催公演】
ハイバイ
『霊感少女ヒドミ』

作・演出:岩井秀人
映像:ムーチョ村松

2014年11月15日(土)17:00 / 20:00
11月16日(日)14:00

公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら