アイホールでは2月7日(土)〜8日(日)に共催公演としてキラリふじみ・レパートリー『Mother-river Homing(マザーリバーホーミング)』を上演いたします。  富士見市民文化会館キラリ☆ふじみのレパートリー作品として再演を重ねる人気作がアイホール初登場です。本作について、作・演出の田上豊さんにお話を伺いました。
 
舞台写真撮影/吉岡茂


■家族の物語
 本作は、昭和時代の熊本の大家族を取り扱ったホームドラマです。誰にとっても身近な家族の話ですので、幅広い世代の方に楽しんでいただけるのではないかと思います。
 僕の両親はとても兄弟が多く、母は7人兄弟です。祖母の家に孫まで含めた親戚一同が集結すると、誰が誰だかわからないぐらいです。僕自身の経験ではなく、親戚が集まった時の様子が原風景になっています。
 “現代口語演劇”の構造に則った、静かでない作品なんですが(笑)、観劇された方から、向田邦子さんが書かれた70年代のテレビドラマ『寺内貫太郎一家』みたいと言われることもあります(僕はリアルタイムで見ていないので、どんな感じなのかあまりわかりませんが…)。大家族のテレビドラマは、昔はあったけれど最近ではあまり見なくなりましたよね。それでも、大家族が織りなす物語の面白さを皆さんご存知なのではないでしょうか。現在では核家族が多いですが、昔は日本にこういった兄弟がたくさんいる家族の姿があったということを、若い世代の方にも見せたいですし知って欲しいです。

 僕の母の家族は、長い間、6人兄弟だと思っていたら、ある日、いきなり見知らぬ人が現れて7人兄弟だったとわかった。コレ、実話なんです…。そのことについて伯父や叔母たちへインタビューをしたところ、兄弟がひとり連れ去られたという“事件”を知っている上の三人と、それを知らない下の兄弟で、捉え方がまったく違うところが実に演劇的だったんです。上の世代の親戚からは「昔はそういうことがあった」と言われたりもしましたが、家族がひとりいなくなるというのは大きな事件だと思い、伯父や叔母たちの過去の記憶を引きずり出して書いてみたのが、この作品です。
■熊本弁での上演
 初演時、「埼玉で熊本弁の上演をするのはどうだろう」と心配しましたが、なんだかNHKの連続テレビ小説を見ているような、ちょっと遠い地域の方言という受け取られ方で、「九州のお芝居なんだ」と自然に受け入れられ、「なんで熊本弁?」と聞かれることもあまりありませんでした。熊本弁はイントネーション以外、語尾がちょっと違うぐらいで、単語がまったく違うものになるということも少ないので、話についていけないということもなかったようです。
 僕が生まれ育った熊本は地域性として、気性が激しく頑固で強情といった攻撃的なところがあります。昭和の熊本の言葉なので、少し訛りが強いですが、アンケートで「びっくりしたけれど、だんだん耳に慣れてきた」という声もあり、方言に対して抵抗なく楽しんでいただけているようです。
 出演者の半分は初演からのメンバーですが、九州出身者は誰もいないんですね。初参加の役者は、早い段階から台詞とイントネーションの指導を受けていました。セリフを音として覚えられたようで、スムーズに進められ、慣れてくると稽古場で日常会話を方言に置き換えてみたりして遊んでいますね(笑)。方言指導の方からもお墨付きをもらうほどです。

■家族の視点
 『Mother-river Homing』は、四字熟語の「母川回帰」を英訳したものです。鮭は結局、生まれた川に戻るということで、母の元に帰るというメタファーですね。昭和の日本の話なのに「なんで英語の題名なんだ」と言われることもあるのですが、「母川回帰」ではお客さんが来ないじゃないですか(笑)。
 初演の際、子育てを終えた年代の女性に好評をいただき、「もう一度見たい」という声が大きく、再演につながりました。再演でも、地域のおやこ劇場さんが団体で観劇され、子どもからお年を召した方まで幅広い世代から好評をいただきました。
 アンケートでも、観客がいろんな視点で見ていらっしゃったということがわかりました。家族の話なので、母の視点で見たり、自分の兄弟を見るような目で見たり、それぞれの視点で楽しまれているようです。家族の視線で見るか、捨てられた立場の視点で見るのか。最近では、片方の親しかいないということもあるけれど、そんな方は、捨てられた兄弟の視点で見たという話もありました。
 地域によって家族の捉え方も違うのではないかと思います。九州の熊本というところは、愛の形が少し歪んでいるようなところがあるので(笑)、「そこまでやっちゃうの?」と思われるかもしれない家族のやり取りが、各地でどのように見られるか、また見られた方がどういった反応を返してくださるか、楽しみですね。
 

■アソシエイト・アーティスト
 平成19年度にキラリ☆ふじみのレジデント・カンパニーを公募する「キラリンク☆カンパニー」で僕らの劇団「田上パル」が選ばれ、以降、富士見を拠点に継続的に活動しました。選ばれてから三年が経過したころに劇場の体制も変わり、対劇団という関係ではなく、対アーティストという関係でお願いしたいと話がありました。現在、継続活動を合意した芸術家=アソシエイト・アーティストが五名います。一年とか、一回の企画で終わるのではなく、長い期間を一緒に劇場と共に創作していく「仲間(=アソシエイト)」ですね。
 いろんな側面があるとは思いますが、公共性として、劇団の作品を創作することは難しい部分があるので、そこを取っ払い、アーティスト個人と劇場のミッションなどをすり合わせた上で、地域に根ざした活動の延長として、劇場の財産となる新作レパートリー作品を創っていこうという流れで始まりました。創作とアウトリーチなど総合的に活動し、劇場に資産として残るような作品創作を目指してそれぞれが活動をしています。

■再々演でのツアー
 地域に根ざして創ろうとスローガンを掲げて、富士見で劇作から取り組んだものが、劇場発信でツアーにでるのはキラリ☆ふじみでは初めてなので、「僕しかまだやってないぞ」と誇りに思っています(笑)。
 再演を重ねたことで、作品の細部にわたるまでブラッシュアップし、洗練されたものになっています。すごく上手になった部分と、逆に失ったものがあり、二年前にこの作品を生み出した時の、九州らしいゴツゴツした雰囲気を取り戻すにはどうしたらいいのか、ということを考えています。半数ぐらいは初演から同じメンバーが支えていますが、今回、初めてこの作品に関わってくださる方が入ることで、そういったことを思い出す作業もしています。

(2015年1月)



【共催公演】
キラリふじみ・レパートリー
『Mother-river Homing』

作・演出:田上豊

2015年年2月7日(土)19:00★
2月8日(日)14:00

公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら