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MONO『その鉄塔に男たちはいるという+』土田英生インタビュー

2020年2月13日(木)~17日(月)にアイホール自主企画としまして、MONO第47回公演『その鉄塔に男たちはいるという+』を上演します。結成30年企画の掉尾を飾る約20年ぶりとなる本作について、作・演出の土田英生さんにお話を伺いました。


 

■初演から22年ぶりの改訂上演

土田:『その鉄塔に男たちはいるという』は、最初は“鉄塔の上”という不安定な場所で芝居をするのが面白そうだという、単純な着想からスタートしたんです。僕の大学時代はバブル期でみんな浮かれてましたから、政治の話すら誰もしない状態でした。でも、テポドン(※)が落ちた頃、「戦争すればいいじゃん」と発言する人が実際に出てきて、それがすごく衝撃的だった。恐怖心を抱きました。で、万が一、戦争になったら、劇団をやっている僕らはどういう立ち位置でいられるんだろうという不安を “鉄塔の上”という設定を使って書いたのがこの作品です。
 元の話としては、戦争で外国に駐留している部隊があり、その駐屯地に慰問に行った芸人たちが、怖くなってそこから逃げ出し、近くの森の中にある鉄塔に隠れている。噂で戦争が間もなく終わると聞いた彼らは「終わるまで待とう」と過ごす。そこに、逃げた芸人たちの噂を聞いて、入ったばかりの新人隊員が鉄塔に逃げ込んできて仲良くなるんですが、戦争が終わった直後、鉄塔の下に戦闘帰りの兵士たちが集まってきて、面白半分に彼らを囲む…という話です。初演が98年、01年に第7回OMSプロデュースとして上演し、今回が約20年ぶりのオリジナルキャストでの上演です。
 ただ、再演するにあたって非常に困ったことがあります。脱走兵を金替康博が演じるんですが、初演当時は32,3歳だったので、「まだ戦闘に出たことがないんです」という台詞も大丈夫だったんですが今は52歳。52歳でその設定はおかしいだろうと(笑)。なので、日本は今以上に不景気になっていて、仕事のない人やリストラされた人たちが志願して入隊するという新しいフィクションを付け加えました。あと、会話も50代がそのまま喋るとあまりにも幼稚に感じられる箇所があるので、そこは “あえて”ふざけているという工夫をしています。

初演より 撮影:松本謙一郎


 芸人についても、いい年齢の人たちが「いつか売れたい!」と希望を持っているのもリアリティがないので、ライブを中心に活動していて、テレビにもちょっと出たことがある、そういうグループに変更しました。芸についても初演はなんの芸か曖昧でしたので、マイム俳優のいいむろなおきさんに相談し、パントマイムのネタを一緒に考えてもらっています。「俺たちのマイムだって、基礎がなってないですから」という台詞が増えているのですが、それぐらい割といい加減な、基礎をおざなりにしてギャグマイムをやっている集団だということにしています(笑)。そんなところが元々あった「その鉄塔に男たちはいるという」を改訂した部分ですね。

※テポドン・・・北朝鮮の開発した弾道ミサイル。1998年に日本列島上空を通過して発射された。

 

 

■プラスする新作短編-属性で分けることの怖さ –

土田:今回、タイトルに「+(プラス)」とつけました。これは、原作で描かれた物語の40年前を新たに短編として書き下ろし前編として上演して、後編に98年初演の作品を同時上演するからです。初演時はある程度のリアリティを持ちつつもファンタジーの物語として捉えることができたんですが、今の日本の現状でそのまま上演すると、想像力のない、そのままな話になってしまうことがひっかかりまして。そこで新たな短編を付けることで、現在ともっと地続きになるんじゃないかと思っています。
 新作短編は奥村泰彦が演じる「吉村陽乃介(はるのすけ)」の両親が、海外旅行でこの鉄塔に観光に来ている設定です。吉村夫妻と夫の妹、その友人で現地に住んでいる女性、その四人が出てくるんですが、それぞれの関係に亀裂が入る瞬間を見せる展開です。まずこの夫婦が離婚危機で、そのことがベースになるんですが、義姉が夫の実家についての文句を言えば、兄妹揃って “吉村家”としてまとまったり、観光で訪れた国の悪口で今度は仲良くなって友人を攻撃したり…短い時間の中でコロコロと関係が変化します。この短編は「属性で分ける怖さ」が軸になっています。実は原作も、人が何かにアイデンティファイしすぎると怖いという話で、その中にあった説明的な台詞を、この短編で見せるという形にしています。つまり今回は、この二作品を合わせることで一つの物語が成立するようにと思っています。

 

■愉快でありつつも切実な作品として

今回の稽古の様子 撮影:西山榮一

土田:二つの時代設定は、前編は「限りなく現代」、後編は「その四十年後」とト書きに書いていますが、前編も後編も「今」を感じられるようにしています。ただ、休憩中に、美術セットを変化させ、朽ち果てた箇所を増やすなどして、40年経ったことがわかるようにする予定です。
 前編では、すでに朽ち果てている古い人形劇のセットが鉄塔に組まれた板場にあります。この国では“ゴスピッチ紛争”という民族間の内戦があり、それに反対していた人形劇のパフォーマーが、戦地に近いこの鉄塔の上で人を集めて隠れてショーをやっていたが、結局、殺されてしまった。その反省からこの場所が残され観光地になっている。四人はそこを訪ねて来ていることにしています。
 三つの時代を俯瞰してもらい、人は愚かなことを繰り返すという視点を持ち込みたかったからです。人形劇のパフォーマーが殺された鉄塔で、およそ100年後、日本から訪れた芸人たちがまた殺されるという…。僕としては珍しく壮大な時間軸になりました(笑)。
 初演台本での「ヨードー駐屯地」とか「アデヤマ」などの地名が出て来ました。自分で作った地名でしたが、韓国語風の響きだったんですね。初演時はそれでよかったんですが、今回はもっと普遍性を持たせるために、クロアチアの言葉を参考に新しい地名をつけています。内戦という設定もありますし。
 ま、内容を説明しているとこういう話になりますが、2時間という時間、観客のみなさんにいかに楽しんでもらうかが、いちばん私の心を占めています。この作品をいま上演すると、どうしたってある種の危機感の表明だと受け取られるだろうと思うんです。もちろん嘘じゃない。けれど説教くさい芝居はしたくない。いま話しているようなことを、とにかく楽しんでもらっている中で切実に感じてもらえればいいんです。ですから、基本的には愚かで間抜けな登場人物たちがバカバカしい会話を交わす、愉快な話にしたいと思っています。

 

 

■質疑応答

Q、この作品では、日本は他国の戦闘に参戦していて、どこの誰と戦っているのか敵が分からないですよね。今の日本を予見しているように思えますが、当時からいつかこうなるであろうという不安があったのでしょうか?

土田:不安はありました。冬季オリンピックで「日の丸飛行隊」という言葉が出て来た時、ビクリとしたのを覚えています。それまでの価値観では使うことにためらいがあったはずなんですが、それが応援の言葉として当たり前のようにマスメディアが使い、そのことに対して誰も騒がなかった。社会が変わる時には、言葉の持つ意味や許される範囲が変化しますよね。だからすごく怖かったことを覚えています。保守化していると肌で感じた体験でした。

 

 

Q、新しいメンバーが入って1年経ちますが、今の劇団の状況はいかがでしょうか。

撮影:西山榮一

土田:いいですね。やっと“劇団”になってきた感じがする。彼・彼女たちのなかで、僕らが体験してきたような小さな揉め事も程よく出てきてますし(笑)。劇団を30年やってきましたが、私たちは愚痴は言っても悪口は言わないんです。だからこそメンバーが変わらずにここまで続けてこられたんだと思う。新しいメンバーを見てても同じで悪口は言わない。ま、そういう人たちが集まってくるんでしょうけど、今まさに「僕らもああいう会話したな」みたいな些細な揉め事をやっているのを見ると、ほんと似てるなと思います(笑)。

 

 

 

Q:約20年ぶりの再演ですが、この作品に対する思いはいかがでしょうか。

土田:この作品はOMS戯曲賞をいただきましたが自己評価としてそんなに上手く書けた作品ではないんです。でも、いつかはもう一度やろうと思っていました。水沼君は「70歳ぐらいになってからやったらいいんじゃないか」と言ってましたけど、正直それは無理だと思います(笑)。今でさえ、みんな「出番が多い」と言ってますし。そう考えると、今が上演できるギリギリ。今やるしかないって感じですね。ま、70歳になってもう一度やれそうなら、またアイホールにお願いに行こうと思います(笑)。

(2019年12月 大阪市内)


■公演情報
令和元年度AI・HALL自主企画
MONO 第47回公演『その鉄塔に男たちはいるというプラス
作・演出|土田英生
日程|2020年2月13日(木)~17日(月)
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