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「みんなの劇場」こどもプログラム『とおのもののけやしき』
アイホールディレクター・岩崎正裕インタビュー

 

 

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アイホールでは、2015年8月21日(金)~23日(日)にオリジナル子ども向け演劇作品『とおのもののけやしき』を上演します。

作・演出のアイホールディレクター・岩崎正裕に、本作のみどころや公演への意気込みを聞きました。


 

■「みんなの劇場」こどもプログラムについて

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岩崎正裕

岩崎正裕(以下、岩崎)アイホールでは、平成20年度から年一作のペースで子どもを対象とした演劇作品を取り上げてきました。初年度は、ディレクターである私が作・演出を務め、アイホールのオリジナル作品として、子どものための音楽劇『どくりつ こどもの国』を創作しました。翌年には、この作品を公共ホール演劇ネットワーク事業として再演し、大きい町から小さい町まで全国4ヶ所を巡演させていただきました。

 その後、他の劇団や劇場で創られたお芝居を、伊丹の子どもたちに提供しようということで、さまざまな子ども向け作品を毎年上演するようになりました。昨年度は、東京の劇場「座・高円寺」のレパートリーで未就学のお子さんにも楽しんでいただける『ピン・ポン』を上演し、幅広い観客層にアピールすることができました。

 今回、当プログラムがスタートしてから数年が経過し、新作を再びアイホールで創る必要があるのではないかという話になり、『とおのもののけやしき』を製作する運びとなりました。

 

■世代を繋ぐ怪談話

 企画段階で作品のテーマは怪談がいいのではないか、という話になりました。しかし、本当に子どもたちを怖がらせてしまい、二度と劇場に行きたくない(笑)という気持ちを持たれてしまうと、劇場の門戸を開いて、子どもたちにおもしろい作品を見てもらいたいというアイホールの趣旨と合わなくなってしまう。そこで、怪談とは別にもう一つ大きいテーマを持ってくることになりました。その中で出てきたキーワードが「昭和の道具たち」です。

 モノが日々刻々と更新されている世の中において、50代の私には、現在の日常品や機器などの使い方がわからないことがよくあります。逆に言えば、かつて昭和の時代に使われた電化製品や生活用品、農耕具などが全くわからない子どもたちも多いと思います。世代間で断絶されてしまった「道具」を子どもたちが知る。そこから大人たちとの新しい対話が構築されていく劇をつくろう、という方向で内容が決まっていきました。

 

■「子ども」と「もののけ」が出会う一夜の成長譚

IMG_9185 舞台は、昭和の道具がたくさん残されている古い蔵の中です。そこに小学生のお兄ちゃんと妹が閉じ込められる、というところから物語が始まります。

 二人は亡くなったおばあちゃんの遺品整理のため、お母さんと田舎の家を訪れていたところでした。その夜、妹が遺品整理で入った蔵の中に大事なぬいぐるみを置き忘れてしまい、兄と一緒に取りに入ったのですが、突然、扉が閉まってしまう・・・。「扉が閉まって暗いところに閉じ込められてしまう」くだりは、怪談の常套を踏襲しています。

 扉が閉まってしまうと、もののけが現れ、「今から出す十個の道具の謎を解いたらこの蔵から出してやる」ということで兄妹たちが協力してその道具の名前、使い方などを答えていく、いわゆる「問答形式」で物語が進んでいきます。

 最初は「お雛様」が、その次は鏡の中から現れた「鬼」が、昭和の電化製品や農耕具の謎を出していきます。最後に出てくるのは、水木しげるさんの『日本妖怪大事典』(2005年)にも載っている「納戸ばばあ」という妖怪です。これは、物置を開けるとおばあさんがいて「ホー! 」という雄叫びを上げてそのまま縁の下に隠れる・・・というだけの妖怪です(笑)。おそらく、古くは勝手に忍び込んで住んでいた、ホームレスの老婆を指しているものと思われます。この物語に出てくる納戸ばばあは、怖がらせるのかと思いきや、子どもたちにご飯を食べさせてくれたり、頭をなでてくれたりする優しい妖怪として描きました。子どもたちには、それが、春に亡くなったおばあちゃんのように見えてくるわけです。

 十個の謎を解き終わる頃には朝がやってきて、一回り大きくなった子どもたちは、扉を開けて外へ出て行きます。本作は、少年少女の一夜の成長譚としても味わっていただける作品です。

 『とおのもののけやしき』の「とおの」は、民族学者の柳田國男さんの民話集『遠野物語』(1910年)と、もののけたちが出す「十(とお)のなぞなぞ」が掛かっていて、さらに、兄妹のおばあちゃんも「東野(とおの)」という名字になっており、三つの掛け言葉になっています。

 

■伊丹市立博物館との連携

 今回、物語に必要なたくさんの昭和の道具をどう集めるかにいちばん苦心しました。その際、アイホールのスタッフから「市立博物館にもそういった道具が収蔵されている」という話を聞き、実際に見学させていただくことになりました。収蔵庫には、私たちが想定していた昭和の道具が“市民の寄付”という形で、きれいに分類・収蔵されていました。収蔵品を貸していただけるか不安だったんですけれども、「伊丹市民から寄付していただいたものをこういった広がりを持って使っていただけるのは良いことだ」ということで、博物館の館長さんはじめ学芸員のみなさんに協力を仰ぎながら、収蔵品の何点かをお借りし、道具のレプリカを製作することもできました。

 こうして市立博物館の協力を得たことにより、思い描いていた蔵を舞台美術として立ち上げることができるようになりました。

 

■出演者について

 DSC_6837 本作の出演者は三人です。幼い兄妹の兄・ひなた役を、劇団「空の驛舎」で活躍していらっしゃる三田村啓示さんが演じます。子どもから大人へ成長する途中である小学校高学年の男の子が持つ“いびつさ”を体現できる俳優です。小学校3年生の妹・とわ役を演じていただくSun!!さんは、演劇のほかにダンスも歌もやっていらっしゃる非常に多彩な方です。暗闇の中ですっと立っているだけで妖精のような雰囲気があり、お兄さん役の三田村さんとのコントラストが非常に美しく見えます。

 一方、もののけ役は、宮川サキさんという女優さんが三役を演じ分けます。宮川さんは一人芝居のレパートリーをここ十年来ずっと続けており、複数のキャラクターを演じ分けることに長けている方です。今回、彼女が“もののけ”を演じることで、子どもたちにも“演じ分けのおもしろさ”が分かってもらえるような仕掛けになっていると思います。

 

■父の視点から描く

 今回の台本を書いてみて、身近に作品のモデルがいるのは強いなと思いました。僕には二人の息子がいるんですけれども、本作では彼らの会話がそのまま形になっており、子ども同士の喧嘩の様子を微笑ましく舞台に表現しました。

 年の近い兄弟は、毎日の生活の中でお互いを許容し合えない。単純に言えば、喧嘩しているわけです。演劇の台詞というのは「セリフ」と呼ばれているだけあって「競り合う」ものであるわけです。まさに、小学生という設定は演劇にぴたっとはまってくるという実感があります。

 子どもたちは怖いことが大好きかと思えば、暗がりを恐れたりするところもあります。怖さとは何に端を発するのか、今回の稽古でもいろいろと探っているのですが、人間は生まれてからずっと死に向かっている、その死への傾斜に対する根源的な恐怖じゃないかと思っています。本作の設定では、そういった怖さに、妹のほうが早く気づいているんです。男の子は高学年でも、まだ生命力に溢れていて、バカばっかりやっている。女の子の方が、おばあちゃんの死に対しても早く興味を抱いていく。この作品では、男女によって異なる子どもたちの成長へのまなざしも描いています。子どもたちが自分自身の置かれ
宣材写真_1ている地点や生活を見つめ、考え直してもらうという視点でも、物語を味わうことができます。

 物語の兄妹を自分たちの家族に重ね合わせて「あの場面はうちで話している会話とそっくりだったね」という話をしてもいいし、おじいちゃんやおばあちゃんが昭和の道具を思い出しながら「私はあの道具の謎が先にわかっていたけど」と答え合わせをしてもいい。終演後、そんな風に家族の中でさまざまな会話が弾んだらいちばんいいですね。子どもたちが眠りに就く前に、ちょっと怖かった昭和の道具や、観終わった後の会話を思い出してもらう。そんな感じの作品になったらと思います。

 

■子どもの感性に響く作品

 子どもたちに小さい頃からこの劇場を知ってもらうことで、劇場文化が世代間を越えて定着していく可能性があると思うし、その入り口を作っているのがアイホールであるとも思います。だからこそ、今回の作品は大人の教訓めいたものは極力排除し、子どもの感性で観ておもしろいと思うものを大事にして創作しました。

 実際に伊丹にあった道具を活用し、子どもたちが昭和の道具に出会っていく過程を描く本作は、ぜひたくさんの子どもたちに観ていただきたい作品です。また、ご家族で足を運んでいただくと、それぞれの世代によってまた一味違うお芝居の見方を楽しんでいただけると思います。

(2015年8月 アイホールにて)


 

【自主企画】
「みんなの劇場」こどもプログラム
『とおのもののけやしき』
作・演出/岩崎正裕

平成27年8月21日(金)19:00
     22日(土)11:00・15:00
     23日(日)11:00・15:00

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