アイホールでは、7月27日(日)に自主企画 として、「みんなの劇場」こどもプログラム『ピン・ポン』を上演いたします。本作は、劇団黒テントをはじめ、座・高円寺や数々の劇場の芸術監督として作品を創作してきた劇作家・演出家の佐藤信さんと、豊かな色彩感覚と世界観が人気の絵本作家tupera tupera(ツペラ・ツペラ)さんが、小さな子どもたちに向けてつくったシンプルで心温まる作品です。
 アイホールでは年に一本、子どもを対象とした演劇作品の上演企画を継続して実施しておりましたが、対象年齢が小学校3年生以上になることが多く、幼稚園や保育所に通う年齢の子どもたちに向けた作品を提供する機会がなかなかありませんでした。本作は言葉を介さないノンバーバル(非言語的)の作品となっており、小さな子どもも観劇できます。上演に向けて、アイホールディレクターの岩崎正裕が構成・演出をつとめる佐藤信さんにお話を伺いました。



■上演について
 大阪には七〇年代に劇団黒テントで芝居を打ってから、毎年のように伺わせていただいていますが、それ以外はあまり関西圏で上演する機会がありませんでした。今回、アイホールさんに呼んでいただき、このような公演をさせていただけることになりました。『ピン・ポン』は文化庁の事業として何度か関西の学校では上演したことはあったのですが、劇場では今回が初めてです。
 アイホールさんとは、座・高円寺(杉並区立杉並芸術会館)が開館した頃からいろいろ協力していただいています。劇場では2年制の演劇学校「劇場創造アカデミー」というものをやっておりまして、その関西地区の試験会場がアイホールなんです。今回は、公立劇場がタッグを組む公演ということで、企画も狙いもお互いに共有しながらやっていきたいと思っています。

■座・高円寺ついて
 「座・高円寺」という劇場は、東京の杉並区が作った公共施設です。高円寺は、関東大震災後、東京の下町の人たちが移り住んできた街で、住宅街と商店街が混在しています。また、コアなファンが集まる古着屋さんやライブハウスも多くあり、サブカルチャーの街としても知られています。公立劇場はご承知のとおり、「貸館」から「ものづくりの原点」への変換が求められています。開館当初から、高円寺で有名な阿波踊りとあわせて、大道芸フェスティバルや演芸まつりなど、地域のお祭りをバックアップしてきましたが、地元の商店街に密着した劇場にしたいと思っています。
 僕は劇場が賑わいをつくるのではなくて「賑わいがあるから劇場があるんだ」といつも言っています。成功させるには、賑わいのあるところに建てれば絶対成功するとも言っています。「劇場が人を集める」という言い方をよくしますが、多くても600〜1000人ほどしか入りません。一晩で1000人集まったって、賑わいなんてつくれるものではない。そこで、賑わいのある場所で劇場をやることによって、賑わい自体の質を変えていく。
 オープニングの時には、お芝居ではなく、劇場の中にいくつものテントを立てて、絵本を約1000冊置いて、『旅する絵本カーニバル』というものをやりました。劇場というのは、建てて反対しないとしても、自分とは関係ないと思う人が大半なんですよ。図書館と比べるとほとんどの方が足を運ばない。劇場に足を運んでも、チケットを持っていないと舞台が観られない。そこで、無料の「絵本カーニバル」というものをやると、新しい建物に関心のある大人も子どもも来て一時間くらいは滞在できる。
 座・高円寺では恒常的に子どもたちが来られるようにしようと、毎週土曜日と日曜日にワークショップを行っています。土曜日は、劇場にある約300冊の絵本から子どもたちが好きな本を選んで、カフェで読んでもらえる「絵本の旅@カフェ」。一般的な読み聞かせとはまた違って、子どもが選んだものを地域のボランティアの方が一対一で読んであげます。日曜日は子どもに向けたワークショップとして、いろんな遊びを提供しています。街を歩いてみたり、お菓子を作ったりしています。その他に、毎年9月に杉並区の小学校4年生約3000人を対象に、お芝居の無料招待を行っていて、生徒・児童にもすごく知名度がある劇場なのではないでしょうか。

■作品について
 座・高円寺ができた最初の年(2009年)から、毎年規模の小さい作品を4本くらい上演していますが、2年目にレパートリーとして創った作品が、本作『ピン・ポン』です。tupera tupera(※1)というユニットの若い絵本作家さんがいらっしゃるんですけれども、その人たちと創りました。奥さんはお子さん2人を育てていらっしゃるし、すごくかっこいい。去年『パンダ銭湯』(絵本館出版)『うんこしりとり』(白泉社出版)というヒット作を立て続けに出していて、お子さんをお持ちのお母さんなら知らない人はいないと思います。絵本ってストーリーも大事だけど絵も大事だし、彼らは遊べる絵本を作っている作家さんだったので、絵本カーニバルの時に「何か一緒につくってみませんか」と、お声をかけさせていただきました。
 最初はワークショップの中で、出演者と一緒にピンポン玉で遊んでいて、ニュートラルで親しみやすいので、いろいろ使えそうだなと。あと、値段が安い(笑)。子どもたちが舞台を観たあと、家へ帰って、遊べるものがいい、という点でもぴったりかな。小道具を選ぶ際も、ドライヤーとか自分の家にあるものっていう前提でしたね。
 ピンポン玉は約300個使います。公演中に結構壊れるんですよ(笑)。舞台監督の仕事は、潰れた玉をお湯で膨らませること。それでもやっぱり時々補給しないと足りなくなる。舞台監督と、高い物を買ったほうが得なのか、延々交渉しています(笑)。

※1/tupera tupera(ツペラ・ツペラ)・・・亀山達矢と中川敦子によるユニット。2002年より活動を開始する。絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、アニメーション、雑貨など、様々な分野で幅広く活動している。NHK Eテレの工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションも担当。http://www.tupera-tupera.com/

■製作について
 ある程度、ワークショップをやった後に作品の流れをつくって、こういうストーリー展開にしようというのは、僕が作りました。その後は実際にやりながら。tupera tuperaさんには、一緒に演出席に座っていただいて、音とか色とかお互いに意見を出し合いながら、共同で演出しました。やっぱり視点が違うので、どうしても僕が演劇的にまとめそうになると、「だからつまんなくなっちゃうんだよ」とか(笑)。初演の頃は、どうしても理屈が先に立っちゃうんですよね。創っているほうは理屈がよくわかっているから、こだわるんだけど、見てる人は「別にそんなところ見てないよ」って気づかないわけで。チームワークで創るのはおもしろいなと思っています。 

■子どもに向けた舞台を創ること
 子どもの感覚っていうのはすごく怖くて、おもしろくないと絶対観ない。見分けるのがものすごく早くて「この役者はつまらない」と思ったら二度と観ない。好きな役者だけを見ている。大人はおもしろくなくても黙って観てくれるんですけれども(笑)。子どもは素直に「帰ろう」と言う。
 専門家から、児童劇は2時間20分を過ぎると、子どもの集中力がなくなりますよと言われたんですけれども、黒テントでは、学生世代から観てくださっている大人のお客さんが自分の子どもを連れてきていても、その子が暴れたり、帰ろうよと言ったりしたことは一度もないです。大人の見方とは違うけれども、子どもはちゃんと観ている。インドネシアの芝居はとても長くて、7時間程ずっとやっているんですけれども、子どももおじいさんも一緒に見ています。
 観客にいろんな世代がいるのはすごく大事なことです。座・高円寺では「子どもたちのための」ではなく、“子どもたちと一緒に観るお芝居”を意識して創っています。本作は、言葉を使っていないお芝居なんですけれども、いろんな要素を使いながら子どもたちと一緒に舞台を遊びたいと思っています。
 大人の方だけで見に来ていただいても全然構わないんですけれども、僕としては、大人と子どもが一緒の時間をつくるということが必要だろうと思っています。今では、0歳児からも観られるベビードラマというものもあり、元々はスウェーデンで始まったんですが、ヨーロッパ全体に広がっています。0歳児のお母さんは外へ出る機会が全然ないんですよ。赤ん坊を連れて劇場へ行けると、同世代のお母さんとの出会いの場になるんです。
子ども向けの演劇を座・高円寺でやってみて、いちばん変わったのは劇場のカフェです。うちのカフェはとても子連れが多いんです。高円寺でベビーカーが入れるカフェが少ないのと、カフェに絨毯が敷いてあって、子どもが暴れても危なくないし、騒いでもあまりうるさくない。そういう理由もあって、昼はだいたい子連れのお母さんが集まって一緒にご飯を食べている場所になっています。

■質疑応答

Q.5年の間で作品が変わってきた事はありますか。
A.やっぱりものすごく変わってきましたね。黒テントでやっていた時もそうだったんですけれども、芝居って回数を重ねると、とても良くなるんです。
 『ピン・ポン』は今年になってずいぶん整理されてきたな、形になってきたなと思います。毎年、東京での公演の他に10ステージほどの学校での旅公演に、僕も一緒に行ったりするんですけれども、特別支援学校なんかは本当に生徒たちの反応が良いんですよね。おもしろい時はすごくハマってくれるし。そうすると、「あ、ここが肝心なんだ」とか「ここはもっと丁寧にやっていこうよ」と。毎年変化をつけていく。座・高円寺ではレパートリーを持っているんですけれども、どの作品もそうですね。

Q.関西の方にこういうところを観てほしいという部分はありますか?
A.大人の方だけでも観てもいいし、子どもが見ているところをぜひ大人にも見てほしい。芝居に夢中になっている子どもを見るのはすっごく楽しい。一緒に観ていると芝居が楽しく見えると思います。

Q.観終わった時に伝わってほしいものはありますか?
A.この頃、思うんですけど、芝居って「観た時」と「記憶に残る時」と二つの経験があるんです。おもしろい芝居ってたくさんあるんですけれども、大体「おもしろかった」って言って忘れちゃう。そこから覚えているっていうのは、また違う経験なんです。『ピン・ポン』を子どもたちがどういう風に覚えているかはわからないけれども、僕はまず記憶に残るっていうのをすごく大切にしたい。
 観終わったら何を思ってほしいかっていうと、「劇場って何やってもいいんだよ」ということが伝われば(笑)。ピンポン玉という物に対する、理屈っぽく言えば一つの固定概念を外して、何やってもいいんじゃないっていうことを見せてあげたい。今の時代、何やってもいいんだよってなかなか言われないもんね。

(2014年7月8日・大阪市内にて)



【自主企画】
「みんなの劇場」こどもプログラム
座・高円寺レパートリー
『ピン・ポン』
構成・演出:佐藤信
構成・美術:tupera tupera

2014年7月27日(日)11:00 / 14:00

公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら