アイホールでは10月31日(金)〜11月2日(日)に自主企画として千葉雅子×土田英生舞台製作事業『姐さん女房の裏切り』を上演いたします。
 本作は、「猫のホテル」の千葉雅子と「MONO」の土田英生がタッグを組み、末長く上演されるレパートリーを創作する試みから生まれた二人芝居です。共に劇団代表であり、劇作家・演出家・俳優の顔を持つお二人に、お話を伺いました。


■今回の経緯について
土田: 千葉さんが所属されている「猫のホテル」が東京で1990年、僕が所属する「MONO」は京都で1989年と、小劇場ブームの終わりと言われていた時代に旗揚げをしました。当時、よく演劇専門誌で東西の若手特集があると、MONOと一緒に猫のホテルも必ず載っていて、どこかで意識していました。
千葉雅子さんとは、テレビ番組の収録に呼ばれた時が初対面でした。これからの演劇について語るという内容の対談で、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが司会、長塚圭史くんと千葉さん、僕の3人がゲスト出演しました。
それから15年間、全く交流がなかったんですけれども、下北沢の飲み屋で人を介して再会し、名前を見るたびに、やってきた仕事を互いに意識し合っていたという話をしました。
その後、僕は2010年から「土田英生セレクション」という企画を始めまして、その千葉さんに『−初恋』、『燕のいる駅』と2作続けて出演していただきました。それで、『燕のいる駅』が終わった後に、下北沢で二人だけのお疲れ様会をしたんです。
千葉: 土田さんには大変お世話になったので、私から「一杯、奢らせてください」ということで(笑)。
土田: 飲み屋で二人芝居の話になって、ちょうどその頃、オウム真理教の菊地直子容疑者が逮捕されて、普通の生活を続けながら逃亡を続けるのはどんな思いだったんだろうという話から、今回の二人芝居のストーリーに繋がっていきました。千葉さんは裏の世界がお好きで、「土田さんは怖い役が似合うんじゃないの」と言ってくださり、「ヤクザの姐さんと舎弟が不倫をして、駆け落ちした20年後がいいんじゃないの?」みたいな話になりました。
そこで盛り上がって、あらかたの話の骨格や設定が決まり、千葉さんが原案を書いてみるという話になりました。その翌年の2013年、東京のSAiSTUDIOで作品を上演した、というのがこれまでの経緯です。
千葉: 私が取り上げたいと思う内容は、やっぱりどこか捻くれているというか、人があまり光を当てない部分に惹かれる傾向があるのかなと思います。私は昭和37年にごく普通のサラリーマンの家に生まれて、大学の研究会で演劇を始めました。暴力団とか、田中角栄の歩んできた道のりだとか、裏日本の漁師町の風景であるとか、全く自分が足を踏み入れたことのない世界への憧れがあるので、そういうものを題材に猫のホテルでは作品を創っています。ただ、うちの劇団では、役者全員が力技で短いシーンを積み上げていくスタイルだったので、土田さんの作品に出演させていただいた時、初めて会話劇の心地よさを知りました。自分の好きな裏社会と会話劇が、こういう作品として融合できたのが、すごくうれしいです。
土田: 今回、千葉さんの好きな世界を自分なりに書くと・・・みたいな形で作品を書かせていただきました。

■作品の内容
土田: タイトルで既にネタバレをしているんですね(笑)。タイトルどおり、「姐さん女房が裏切る」という話なんですけれども、裏切りまでの20年間や、女の“思い”を見せています。
姐さんは元々優等生なのに、反発してヤクザの組長と結婚した。その頃、下っ端で馬鹿だけどしゃべりやすい舎弟(男)がいて、姐さんがあれこれ命令していた。
ある日、男は姐さんからいきなりベッドに誘われるんです。つまり、姐さんから関係を持つよう強要されてしまった。普通、組長の奥さんに手を出すなんてできません。男は舎弟だったのでその命令に逆らうことができず、組の人間に二人の不倫が見つかって逃げる羽目になってしまった。
男は、姐さんによって人生を狂わされた被害者だと思っている。姐さんと不倫をさせられて、挙句の果てに逃げる羽目になり、狙われるので表に出られない…。その状態で20年を過ごしたことにより、だんだんと横暴になっていきます。姐さんは元々、男より地位が高かったのですが、20年を過ごす間に、威張り散らす男に対して姐さんが従属的な形を取るようになります。
お芝居の中では描かれないのですが、物語の背景では、姐さんが疲れ果てていた頃に、昔の組の関係者から連絡があり「男を差し出せば、代わりに姐さんの面倒を一生見てやる」というような交渉が持ち込まれます。気持ちが揺らぐ中、姐さんは何とかして男の口から、逃げたことを後悔していない、好きで逃げたから一緒にいたんだ、と言わせようとするんです。きっとその言葉があれば、姐さんは裏切らず、自分が一緒に殺されてもいいくらいの覚悟はあったのだと思います。けれども、男はその思いに気づかず、姐さんは見切りをつけて出て行くという話です。この作品は、姐さんが男を裏切り、出かけるまでの最後の1時間を描きました。
前半はわりと軽いトーンで、日常が垣間見られるシーンが描かれています。例えば、男は外に出られず、姐さんが買ってくる新作のクロスワードパズルを解くのを楽しみにしているのですが、学がないのでクロスワードで「宮沢賢治」となるところを「マヤザワタンジ」と書いてしまう。それを姐さんが気を遣いながら本当の答えを教える、というようなやりとりです。基本的には、そういった会話が中心となり、最後の最後で物語の核心が見えてくるという話になっています。

■初演時の感想
土田: 僕はこの作品を、「ちょっと楽しんで創ってみました、よかったら観てください」くらいの感じで、肩の力を抜いて創ることができました。むしろ、観に来てくださった旧知の演劇関係者や知り合いたちのリアクションが思った以上に良かったので、ちょっといい気になって、この作品で全国を回りたくなったという感じですね。
周りの感想を聞いて、自分たちはこういうことをやっていたんだ、と知ったところはあります。普通はどんでん返しで驚かすことを考えがちですけど、展開がわかった上で観るのはおもしろいよね、みたいな感想をいただきました。演劇的な実験をしているわけではないけれども、「ネタバレをしているのが良い」と、ストーリーじゃないところで演劇的な時間があるのが楽しかった、と。

■上演に向けて
土田: 僕も知らない間にいい歳になって、小劇場も長い間やってきて、だんだん活動にも疲れてくると思うんですね。けれど、何かしら動きを起こしたいという思いもあって。奇抜なことや新しいことはできないけれど、いろんな活動の可能性の一つ形として、同じようなキャリアを積んできた方と一緒に組んで、何かできたらいいなと思っています。
千葉: 息の長い作品を創っていけたらな、というのが今回の企画のスタートですね。
土田: 東京と関西で演劇をやっている人が組む、というのがおもしろいなと思っていますし、そういった垣根もどんどんなくなればいいなと思っています。東京で上演して終わりというのは、僕自身はちょっと違うなという気がしていて、今回の作品をどうしても関西でやりたかった。せっかく長い間、東京で演劇をやっていらっしゃる方と組んでいるので、そういうことも含めて、関西で公演をやる意義があるんじゃないかと。だから、特に関西で演劇をやっている若い人たちに、この作品を見てほしいと思っています。

■質疑応答

Q.二人芝居はお二人とも初めてですか?
土田: 僕は松田正隆さんの作・演出で『蝶のやうな私の郷愁』と『季節(とき)が流れる、城塞(おしろ)が見える』という作品で、内田淳子さんとの二人芝居をやったことがあります。
千葉: 私は、初めてです。土田さんの胸を借りています。
土田: 千葉さんはコメディエンヌなんですけれども、舞台上ではコメディだけの部分だけではなく、大人の女の色気があり、艶のある女優さんです。

Q.初演と変わったところはありますか。
土田: 話は全然変わってないんですけれども、僕がダイエットして体型が変わってしまいました。前の体型の方が、お腹も出ていて、クロスワードパズルをやっている引きこもりの役として良かったんですが、痩せちゃったんで、体を鍛えるシーンがやたら入りました(笑)。「体、鈍るだろっ!!」 とか言いながら、意味なく腹筋を始めたり・・・。だけど、それをアイデンティティとするほどには、痩せてはいないんですよね。今回、金沢公演に向けて2週間程稽古をし直したんですけれども、その中で毎日腹筋と腕立てをしていたので、たぶんアイホールで公演する頃には、体が仕上がっていると思います(笑)。

Q.この作品では、どの部分を深く描かれたんでしょうか。
千葉: この作品の中で姐さんと男の20年も凝縮されているし、その20年が最後の最後でどう決着するのか。その瞬間が、深く描かれているんだと思います。
土田: 僕も同意見です。その場の会話、目の前で劇が進行しているその時間を楽しんでいただければと思っています。

Q.この作品では、姐さん女房の心理が重要だと思うのですが、土田さんは男性として何か参考にされたことはありますか。
土田: 僕はもう47歳ですけれども、これまで出会ったいろんな女性から、なぜそんなふうに言われたのかわからないという言葉がいくつもあったんですね。答えているのにしつこく聞かれたり、丁寧にしているつもりなのに「もういいっ」って怒って出ていかれたり、そういう場面で印象に残っている言葉がいくつもあって・・・。それを繋ぎ合わせた感じですね(笑)。女性の心理はわからないんですけれども、自分が過去に女性から言われた言葉を書きました。
不思議なもので、書いていたらその時の女性の気持ちがわかるんです。あの時はこういうことで怒っていたのか、と。そこで、今まで言われてきた言葉が台詞に入るんです。あぁ、こう言えばよかったんだって思うことはあるんですけれども…。実際には、わかっても言えないですよね。
千葉: 私と同年代の友だちで、すごく年下の旦那さんがいる女性から「うちの旦那が、(作中に出てくる男と)本当に同じことを言う!」と言われました。年下夫の忸怩たる思いというものもばっちりあると思う。
土田: この作品に出てくる男は、ちょっと子ども過ぎると思いますけれど…。
千葉: けれど、作品を観た人がみんなわかると言っているんですから、男性の普遍的な姿が描かれているんじゃないんですか(笑)。

Q.今後、シリーズ化の予定は?
土田: まだ形は決まっていないですが、せっかくこうして縁ができてやっているので、この名前で何かしらやっていけたらなと思っています。
この舞台製作事業の一つの目的は、普遍性の高い、いつでも上演できるような作品を創っていきたいということです。「今ここでやらなきゃいけない」というような新作は、各々の活動の中でやっていけば良いんですけれども、この事業に関してはスタンダードなものを創りたいなと思っています。それが創れるのであれば、例えば若い俳優を使って、僕たちが脚本や演出の裏方にまわるというような、違う形になってもいいと思っています。
千葉: 土田さんは全国を回られていることが圧倒的に多いと思うんですけれども、私はわりと東京中心なので・・・。この作品で、巡演していないところへ行ってみたいですね。
土田: 猫のホテルは扇町ミュージアムスクエアの最後の年(2002年)に関西へ来ているんですけれども、それ以降、あまりこちら関西で上演をされていないんですよね。だから、この舞台製作事業を通して、関西で千葉雅子をお披露目したいという思いはありますね。

(2014年10月 大阪市内にて)



【自主企画】
千葉雅子×土田英生 舞台製作事業
『姐さん女房の裏切り』

原案・出演:千葉雅子
作・演出・出演:土田英生

2014年10月31日(金)19:30
11月1日(土)14:00 / 19:00
11月2日(日)14:00

公演の詳細は、こちらをご覧下さい。 → こちら