アイホールでは12月20日(土)〜21日(日)に自主企画として演劇ラボラトリー 上田一軒プロジェクト 『女珍団パラリラ』を上演いたします。 上演に向けて、アイホールディレクターの岩崎正裕が上田一軒さんにお話を伺いました。


■演劇ラボラトリーについて
岩崎:横山拓也さんの書いた戯曲を、上田一軒さんが演出し、舞台を創り上げる「演劇ラボラトリー上田一軒プロジェクト」は今年で2年目となります。稽古はどれぐらいのスパンでされていますか?
上田:6月から12月にかけて半年ほど行っています。前半はワークショップ、後半は公演に向けての稽古です。劇作の横山君が前半のワークショップに立ち会い、受講者の特性を見た上で、それらを活かした台本を構想して書き上げていく、というスタイルになっています。
岩崎:「演劇ラボラトリー」は一般向けのワークショップから発展したものですが、今年はどのような年齢層の方が参加されていますか。
上田:上は60代、下は大学に入学したばかりの10代の方が参加して、幅広い年齢層にほぼ均等な状態です。
岩崎:ずばり、今年のコンセプトは?
上田:僕がコメディを得意とする劇団「スクエア」で活動していることもあり、昨年はコメディを上演しました。演劇ラボラトリーは、経験を問わず受講生を募集し、集まった演劇初心者の方と最終的に公演をします。昨年は「素人でもコメディができるんじゃないか」というところから始めたんですけれども、実際にやってみたら受講生の方々が意外と面白かった。「これはもうちょっと欲を出してもいいんじゃないかな」と思って、今年は、受講生にもっと芸のいる、面白さを出す技術を必要とするコメディをやろうと思っています。

■“見て楽しい”コメディ
上田:今回は、横山君が受講生一人ひとりの生い立ちや人柄を取材して、それをヒントに作品を立ち上げました。今年の受講生は、幅広い年代の女性が集まっており、学業に励んでいる方、働いている方、家庭を持っていらっしゃる方など、その生き方も様々です。僕も、劇団の活動だけではここまで幅広い年齢の方とお芝居を一緒に創る機会はなかなかありません。そこで、今回はこの年齢層を活かした舞台を上演します。
今回の作品は、若い頃、「レディース」と言われる女性の暴走族だった歴代総長たちの話です。かつて高校の修学旅行で行った、初代総長も泊まったことがある旅館で、同窓会が開かれることになります。集まった歴代総長は、暴走族とは離れた世界で暮らす人や、暴走族時代を引きずったまま生活を送っている人など、卒業後の経緯も様々。理由は明かされないまま、初代総長の命令で、歴代総長たちが突然旅館に集められる・・・というところから物語が始まります。
岩崎:ミステリーですね。
上田:はい、謎を含んでいる状態から始まるという・・・。
岩崎:彼女たちがかつて暴走族をやっていたという雰囲気は、舞台や登場人物のやりとりの中でも出てくるんでしょうか?
上田:歴代総長たちは、旅館までバイクをガンガンに飛ばして来る人や、特攻服を着て来る人もいるけれど、普通の服でやってくる人もいる。そこで生まれるギャップは、かなりコメディ寄りですね(笑)。
岩崎:そこに面白さがあるのだとすれば、一軒さんの考えるコメディというのは、やはりシチュエーションコメディなのでしょうか?
上田:はい。今年はそのような形になりました。去年は、会話の中のすれ違いから面白さを見せていくコメディだったんですけれども、今回は僕がスクエアで取り扱っている種類の“見て楽しい”面白さがあるコメディになりましたね。
岩崎:社会的な問題で暴走族を見るのではなく、それをやってきた人たちの“おかしみ”に焦点を当てていくというわけですね。

■演劇の実験場で生まれる面白さ
岩崎:脚本も上がって、すでに稽古が始まっているんですけれども、受講生の皆さんのコメディに対する対応能力は上がってきていますか?
上田:非常にありがたいことに、演劇ラボラトリーは公演の稽古に入る前に、3ヶ月、丁寧にワークショップを行えるんです。最初はその半年で、コメディのスキルというか、“笑わせる技術”をやろうと思ったんですよ。漫才をやらせるとか、面白いコケ方やボケ方、ツッコミとか・・・。
岩崎:(笑)。
上田:でも結局、そういったことはあまりしませんでした(笑)。実際にやってみて“笑わせる技術”よりも、まず“会話のリアリティ”を出すことの方が、ずっと大事だと気づいたんです。いきなり面白いパフォーマンスを特訓しても、台詞がその人の身体を通したリアリティのあるものでなければ意味がないってことに気づいて。
受講生たちも、前半のワークショップで“会話のリアリティ”を丁寧にやってきたので、その大事さが身に染みてわかっているようです。僕は稽古に入ってから、“間(ま)”やタイミング、パフォーマンスなど“コメディの型”を言うんですが、受講生たちはみんなカタチでお芝居をやろうとしない。逆に、「リアリティに基づいてやろう」という意識がある。僕が「なんか違う」と言ったら、(自分たちの芝居に)リアリティがない、カタチだけでやってしまったんだなということを理解してくれるんです。そういう状況になると、稽古がやりやすいですね。
岩崎:ワークショップから稽古に至るまでの過程においても、演劇ラボラトリーはその名の通り“演劇の実験場”になっているということですね。
上田:そうですね。ワークショップというベースがないと、ただの発表会になってしまうと思います。
岩崎:今までの話を伺っていると、演劇ラボラトリーは、演出家である一軒さん自身にとってもこれまでやってきたコメディの核心を突き詰めていくような、刺激になる現場になっているのではないでしょうか。
上田:僕は元々、演出家ではなく俳優として演劇を始めました。ですから、自分のいちばんの特性は、俳優の発想を引き出して僕の芝居に近づけていくやりとり、そのノウハウだと思っています。このノウハウは、もしかするとプロの俳優とやるより演劇未経験者とやるほうが、むしろ先鋭化していくのかなと感じることはあります。
岩崎:あまり舞台の経験値がない人の身体を通すと、一軒さんの考えているコメディがより純粋になっていく側面もあるということですか?
上田:それはあります。お芝居のできる俳優さんが持っている〈技術〉の部分がなければ、その人の身体と理解に頼るしかないので。
岩崎:時間をかけて受講生たちと付き合ってきたということですね。
上田:何ヶ月も一緒にやっていると、受講生一人ひとりの人柄の中で、何が面白いかがわかってくるんです。そして、その「面白さ」が僕だけではなく、受講生たちにも伝わる時間も必要なんです。例えば、僕がある人の持つ一面を面白がって他の受講生に言ってみると、受講生たちも「確かに面白い」と納得する。そうすると本人も「自分のこういうところが面白がられている」と気づく。そこで初めて、「面白さ」というものは演劇のパフォーマンスではなく、自身が元々持っているものの中にあるんだ、ということにみんなが気づいていくんです。
岩崎:その人の潜在能力ということですね。
上田:個人の人柄、例えば人との距離の取り方や遠慮の仕方が特殊だとか、怒り方が面白いとか、そういう部分を舞台に出していいんだと、受講生自身が気づいてきたらシメたものですね。そうなってくると、お互いが面白いと思うことだけを積み上げていく作業ができるようになる。

■本作のみどころについて
岩崎:今までの作業を経て、みんなの面白さを分かち合ってきた。その上で上演する『女珍団パラリラ』の“みどころ”はどこでしょうか。
上田:まず、受講生18人全員が登場人物個々人を演じる群像コメディであるということ。主役や端役がいるわけではなく、18人それぞれの人物像が作品では描かれていますので、みんながその人生を背負って舞台に立っています。一人ひとりの人物を描いていくので、脚本を書く横山君は大変苦労したようです。演劇ラボラトリーはワークショップの過程を経て公演を行う講座ですので、作家や演出家の表現したいことが先にあるのではなく、まず受講者の身体ありきだと思っていますし、それを全部舞台で見せていきたいです。
さらに、幅広い年齢層の人たちが出演するということ。年齢によって異なる様々な人たちの声、身体、その豊かさがコメディの面白みとして“みどころ”になればと思っています。あと、今回は設定が暴走族ということもあり、役を演じるという“芸”の部分もがんばっています。ただそんなに難しいことをしようとしてもできないので、その人自身が持っている個性の部分をちょっと強調してもらうような技術を、がんばってやってもらっています。なので、受講生の様々な個性が出てくる“見て楽しい”舞台になっているはずです。
岩崎:今回お話を伺って、この作品は今ある関西小劇場の中に置いたとしても、一石を投じる面白いものになっているんじゃないかと思いました。
上田:ぜひ、色んな方にこの作品を観ていただきたいです。


(2014年12月03日 アイホールにて)

【AI・HALL自主企画】
演劇ラボラトリー 上田一軒プロジェクト
『女珍団パラリラ』

12/20(土)19:00
12/21(日)12:00/16:00