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平成30年度 次世代応援企画break a leg 参加団体インタビュー




AI・HALL共催事業として、今年度も「次世代応援企画break a leg」を開催いたします。

参加する2劇団よりそれぞれ代表のみなさんと、アイホールディレクター岩崎正裕より、本企画および各公演についてお話いただきました。


■企画趣旨について■


岩崎:次世代応援企画break a legは、2012年度から開催しており、今回で7回目になります。昨今の関西では、経済的に厳しい状況にある劇団が多く、カフェ公演やアトリエ公演が流行っています。そうしたなか、アイホールを使用する若手の団体が少ないのが現状です。そこで、若い表現者に門戸を開くために「break a leg」を立ちあげました。近年は名古屋、東京などの関西圏以外の団体の登場も多かったのですが、今年度は久しぶりに関西にルーツを持つ二団体が並びます。今回の応募団体の中で、「少女都市」と「うんなま」は頭一つ抜けている印象がありました。他の団体が駄目だったのではなく、この二劇団の成立度が高く、期待ができると考え、今回、選出しました。


■少女都市「光の祭典」■

『光の祭典』初演より 撮影:松本真依

本未織(以下、葭本):劇団名である「少女都市」には、二つの由来があります。一つは、東京と兵庫の二都市で活動していること、また作品の題材として東京と他都市の二都市を描いていることです。私は兵庫県出身で東京でも生活をしています。西と東は似た部分もありますが、生き方や風習や考え方が全然違います。特に生まれも育ちも東京の人は、地方のことがイメージできないことが多いと思います。だから、作品のなかで二都市を扱い、地方はきちんと存在して、息づいているということを伝えていきたいと思っています。

そして少女都市のもう一つの由来は、私たちは女優の肉体と言語を通して「抑圧のない自由な世界の創造」を目指している、ということです。自らの欲望・立場・利益のために物理的・言語的暴力によって、人間の尊厳や、精神・行動の自由を奪う。そのような抑圧は特に弱い人に向けられます。その襲い来る抑圧を、女優の情念でとらえる。舞台上で言語と肉体をもって放つ。観客の創造力を借りて、役者と観客が劇場で相互の体験として、抑圧のない自由な世界を創造する。そのことを目標に舞台を創っています。

今回上演する『光の祭典』は、2017年に初演したものです。物語は、カップルの男の方が消えてしまうところから始まります。残された女がその謎を追っていきながら、どうすれば誰かを傷つけることなく自分の傷を癒すことができるのか、憎しみと暴力の連鎖を断ち切ることができるのか、考えはじめるさまを描いた作品です。

今回の再演に向けて、台詞の大幅な変更は行いませんが、演出はかなり変えようと思っています。また、初演は私が主人公を演じましたが、今回は別の女優が演じます。新しいメンバーも加わり、昨年より若い俳優たちが多くなったので、また、新しい『光の祭典』をご覧いただけるかと思います。

◇「喪失」と復活を描く◇

葭本未織さん

葭本:私は1993年1月17日生まれで、二歳の誕生日に「阪神淡路大震災」があり、兵庫県芦屋市で被災しました。その時はまだ幼すぎて揺れの記憶はないんですが、仮設住宅で生活していたころの記憶がすごく鮮明で、初めて観た映画は避難所の慰問で来た『E・T』でした。小学校に入学すると、毎年、震災の日に慰霊式典を行っていました。その準備として、折り鶴を折ったり、歌の練習をしたり、どんな被害があったのかを学んだり、毎年必ず震災について考える機会がありました。震災の日が私の誕生日でもあるので、毎年、慰霊式典の準備中に「(自分が生きていることが)すごく不思議だな」「生きるってどういうことなんだろう」ということをすごく考えるようになりました。

私の両親は震災の前年の12月に家を買って、翌月に地震で全壊しました。当時は法律も整備されていなかったので、存在しない家のローンを延々と払い続けなければなりませんでした。他にも、お子さんを揺れから庇いきれず亡くされた方や、死体を見ても何も思えなくなってしまった学校の先生が身近にいました。私は、大きな被害からどうやって立ち直るかが大切な地域に生まれ育ったわけです。でも、宝塚の高校に入学すると、驚くことにみんな震災を知らないんですね。高校を卒業して東京に行くと、それ以上にみんな震災を知らない。だから、「そうか、こうやって忘れられてしまうんだ」と考えこんでしまいました。今回の『光の祭典』は、特に被災経験のある30代後半から40代の女性に観ていただきたいと考えています。そして、もう一度みんなで震災のことを考えたい。「震災の記憶」についてもう一度考える機会にしたいですし、もちろん震災を経験されていない方とも思いを共有したいと思っています。

また、「#Me too」の流れがある今だからこそ観て欲しい作品でもあります。この作品には、レイプが原因でカメラを持てなくなった女流映画監督が主人公として出てきます。どうしようもない暴力を受けてしまった人間が、自分の受けた傷に対し、他の人に同じ痛みを負わせるのではなく、どうやって自分自身で克服して生きていくのかを考える物語です。

フライヤーのキャッチコピーにもある「喪失と復活」がこの作品のテーマで、先の二点とも繋がっています。どうしようもない出来事があったとき、人はどうやって自分自身で克服していくのかを作品を通じて伝えていきたいです。

私は、すべての性暴力を、すべての抑圧を、決して許しません。芸術の名の下に誰かが誰かを抑圧する時代は終わりを告げていて、私たちはその真っただ中にいます。同じ時代を生きる人に見てもらいたいです。

岩崎:お稽古は東京でされるんですか?

葭本:いえ、兵庫です。神戸に東遊園地という、ルミナリエの終点の公園があるのですが、そこに座組全員で行ったりして、稽古場に閉じこもるのではなく、みんなで体験して、みんなで考えながら作品を作っていきたいと思っています。

岩崎:作品のモデルとなった土地でその空気を吸いながら作っていくことになるんですね。


■うんなま「ひなんくんれん」■

『search and destroy』より 撮影:小嶋謙介

繁澤邦明(以下、繁澤):「うんなま」は、もともと「劇団うんこなまず」という劇団名でして、団体名からすでに社会を拒絶してしまっているところがあったんです(笑)。今までの作品も、作りたいものを作って、共感できる人が共感してくれたらいいやっていうスタンスがどこかありました。いわば、「自分たちのための演劇」ですね。そんな中で、今回、「break a leg」に選んでいただけたのはとても光栄で、この機会に、市立の演劇ホールであるアイホールで、共催公演として何をするかを考えました。演劇作品として面白いものを作ることはもちろん、かつ、実用的で実利的というか、社会にとって意味がある演劇とは何だろうかと考え、観て学べる演劇作品として、今回『ひなんくんれん』という新作を発表します。この作品のテーマは大きく二つあり、一つは「誰かのための演劇」、もう一つが「演劇(うんなま)で防災」です。

私自身、兵庫県明石市の出身で、6歳の頃に阪神淡路大震災があり明石で被災しました。ただ私の家自体は幸いそこまで重い被害は受けず、被災後も普通に家で生活しました。水道が出なくて近所の公園に水を汲みに行った思い出があります。2011年の「3.11」の頃は就職活動をしていて、とあるメーカーの面談が終わった後に「地震がありました」という情報をツイッター等のSNSで知りました。大阪の下宿で一人テレビを見ていると、津波で家がどんどん流されていく光景が繰り返し繰り返し放送されている。就職活動で「自分とは何だろう」と考えていた時期にそういった光景を何回も見たことで、「人って一体何が出来るんだろう」と考えさせられました。そういったこともあり、心のどこかには、いつか取り組みたいテーマとして「震災」あるいは「防災」がありました。

また最近、テレビやSNS等で、テロやミサイルは扇動的なまでの扱われ方をしていたと思います。「これからJアラートが鳴ります」とか、「どこどこの国でテロがありました」とか、ショッキングな出来事を、ただひたすらショッキングに、ある種、あっけなく扱っているように感じる。でも、そういった有事のときにどうすべきなのかは、自分自身なんだか分かってないなと思ったんです。簡単な例としては、地震の揺れを感じたら、家に居たら水を貯めましょう、ブレーカーを落としましょうとか、テロのときは即座に反応して隠れましょうとか、ミサイルが落下する場合は地下に潜りましょうとか…。そういった実用的な知識を、改めてわかりやすく伝えるための演劇があってもいいんじゃないかと思ったのが、創作の根っこにあります。その意味において、「観た後も観た誰かのためになる演劇」が作りたいなと思っています。

正直、今までの「うんなま」の作品は、よくわからないとか意味不明とか難しいとか、まあそんな感想も時にはいただいてきました。一方で今回、選考していただいた岩崎さんからは「台詞の構成が巧みだ」、泉さんから「興味を観客へ提供できる形で成立してる表現手法」という言葉をいただきました。今回のような実用的なテーマで作品づくりを行うことは、お二人が仰ってくださった「うんなま」の特徴をまさに良い方向に転ばせられるんじゃないかと考えています。また、私たちの演劇を観ることで、「防災」あるいは「地震」「テロ」「ミサイル」等に対する知識や対応方法を、ネットや本とは違う手段で学ぶ機会にもなるんじゃないかとも思っています。今回、観客の皆さんは、ある種、講義形式のように演劇作品を観ていただくことになります。ただ、次回作以降は、観客の方々が劇中で実際の避難訓練をやってもらう「体験型」のようなバージョンも構想しています。社会的な実務や実用性、知識や情報を伴ったテーマによる「うんなま」作品の初戦として上演したいと思っています。

岩崎:ということは、お客様はずっと座って観ていられるということですね。

繁澤:今のところはその予定です。着想の時点では、実は座っていられないような演劇にしようと思ったんです。でもそれは次回以降にしようかと(笑)。今回扱うテーマは、ポータブルにできると思っていまして、例えば「ひなんくんれん:講義編」と「ひなんくんれん:実践編」みたいにシリーズ化を目論んでいます。

◇“インフォテインメント”な演劇を作りたい◇

 

繁澤邦明さん

繁澤:今作のストーリーラインはシンプルです。一人の女性が夜明け前に薬の過剰摂取、いわゆる自殺未遂のようなことをするところから始まります。彼女はそのまま夢の中に入り、そこで自分の父親や母親に対して、地震、テロ、ミサイル等に対する防災について説いていきます。その世界とは別に、自殺未遂後に酩酊、昏睡状態にある女性の部屋のベッドの横で彼女を見守り続ける男がいる世界、構造としてはこの二つで成り立っています。自殺未遂をした女性と彼女を見守る男というのは、私の実体験に基づいたものです。「人は人のために、一体何ができるのか」という思いにも繋がるのですが、自殺未遂をした女性とそれを見守り続ける男性、家族に生きていて欲しいから防災の知識を説き続ける女性、あるいはこの演劇作品自体が観客のためにその知識を説き続けているという構図をつくることで、ちょっと歪かもしれませんが、「誰かのための演劇」でありたいと願っています。そして、「いつか起きる」とされている有事と、自殺未遂をした女性を見守り続ける男の「いつか終わる」恋・青春の想い、その対比の妙を描ければと思います。 演劇作品ですので、演劇的なうねりと、演劇ゆえの猥雑さが持つエネルギーと、劇的な空間をつくっていきたいと思っています。

最後に、うんなまの『ひなんくんれん』は、観て、知識として学べる「インフォテインメント」な演劇を目指しています。「インフォテインメント」とは「インフォメーション」と「エンターテインメント」をかけ合わせた言葉です。僕も最近知ったのですが、カーナビなどで使われているようです。演劇って、エンターテインメントですよね。これだけ娯楽や情報を提供する媒体が多い中で、エンターテインメントである演劇が、防災的な知識=インフォメーションを提供することでより発展していく、っていうことにも挑戦できれば良いなと思っています。劇団がただ面白い演劇を作って上演するだけ、ではないというか。もちろん、キーワードとしては、「誰かのための演劇」、そして「うんなまを観て防災になっちゃう」、この二つを押し出していきます。演劇を普段観ない方々にも、演劇を観るきっかけになったらいいなと思います。今回、うんなま初めての人は1000円という料金設定なので。


■質疑応答■


Q.葭本さんは『光の祭典』を女性に観てほしいとのことでしたが、男性に向けてはいかがですか。また、初演で男性からどんな反応があり、男性に観てもらうことへの意識はどのようなものかお聞かせください。

葭本:初演を観られた男性のほとんどに「本当に怖かった」と言われました。でも、「抑圧」は女性だけが感じているものかというと決してそうではないんです。男性でも同じように抑圧の中で苦しさや悲しさを持って生きている人がいると思います。初演では、女性の情念や、深くて怖い狂気や、その狂気が対外的に出てくる様子(束縛・暴力など)を描きました。今回の再演では、その狂気を受ける男性や、それの様子をみている他の男性がどう感じているかをより具体的にしていきたいと思っています。観客の男性が「もしかしたら自分もかつてこういう目にあった」と思うかもしれません。この公演を観ることがそういうことを思い出す機会になればいいなと感じています。

Q、うんなまの作風について「猥雑さが特徴」とありますが、どんな猥雑さを想像すると近しいでしょうか。また、いつもその猥雑さは想定されていますか?

繁澤:「現代性と演劇的猥雑さの両立」という言葉をいただいたこともありますが、物語の筋が見えにくいのに台詞はポエトリーだったりするところや、劇ならではの言葉や構造、体験を作っているというところでしょうか。

岩崎:僕は、若者の日常言葉を雑然と舞台に置いていると見せかけて、実は構成されているという感じのことだと思っていますけどね。

Q.震災を描いた作品は、映画や舞台などでたくさんあるかと思いますが、直接今回の作品に繋がらなくてもいいですが、参考のために観たものはありますか?

葭本:私が影響を受けたのは園子温監督の映画『ヒミズ』です。抑圧された子どもがどうやって生きていくかを描いている点で参考にさせていただきました。この映画は、震災で家族や家を失くした人たちが東京に流れ着くという話です。『ヒミズ』もそうですが、私は震災が人に与える影響は経済的なことだけでなく精神的にもあると思っています。というのも、私自身がすごく抑圧された子ども時代を送っていたようで、大人になってからカウンセリングを受けると必ず「親との関係が悪い」と言われます。でも、両親のことが大好きで、私のことをすごく応援してくれているのに、なんでそう言われるのか腑に落ちなかった。そしていろいろ考え、行き着いた原因が「震災」でした。被災当時の両親は20代半ばで今の私と同じぐらいの年齢でした。その若い夫婦が家も財産も無くしてしまい、子どものためにがむしゃらに働くようになりました。子どもはそれを見て困らせちゃいけない、「いい子」じゃなきゃいけないと思い、そして親に甘えられない子になってしまった。私たち親子の関係には、やっぱり「震災」が大きく横たわっていたということに、『光の祭典』を書きながら気づきました。

繁澤:正直、これという作品を思いつきません。ただ、特に「3.11」の震災があった後、「震災」を題材にした作品がやたらと多いと思いました。そして、震災で世界が崩壊するということが安易に表現のカタストロ
フィーや手段として使われていると感じました。それに対するアンチテーゼではないですが、今回の作品のテーマとして、どういったことを意識したら別の視点で「震災」や「防災」に対するアプローチができるかを考えていました。一つの例としては、プレゼンテーション番組の「TED」やスティーブ・ジョブズのAppleのプレゼンを参考にしています。ビジネス的なアプローチかもしれませんが、「必要な知識・情報の『伝わる』伝え方」というのを意識して作品作りに活かしたいと思っています。かつ、もちろん劇ゆえの面白さとしての台詞構成、構造も意識して臨みたいです。


                                   (2018年4月 大阪市内にて)

平成30年度次世代応援企画break a leg 

少女都市『光の祭典』 
作・演出/葭本未織
平成30年6月1日(金)19:00、2日(土)14:00/19:00、3日(日)11:00/15:30
公演詳細

 

うんなま『ひなんくんれん』 
作・演出/繁澤邦明
平成30年6月9日(土)15:00/20:00、10日(日)11:00/15:00
公演詳細