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「みんなの劇場」こどもプログラム『かえるの? 王子さま』
いいむろなおき インタビュー

アイホールでは今夏、自主企画「みんなの劇場 こどもプログラム」として、いいむろなおきマイムカンパニーによる新作『かえるの? 王子さま』を上演します。子どももおとなも一緒に楽しめる作品を創作するにあたり、公演に先駆け、当館の岩崎正裕ディレクターがいいむろなおきさんにお話を伺いました。


 

■幼児から大人まで楽しめる作品

岩崎正裕(以下、岩崎):今年は、子ども向けの作品として、いいむろなおきさんに新作を創作していただきます。先ほど、稽古の様子を少し拝見したのですが、着々と仕上がっていますね。感触はいかがですか?
いいむろなおき(以下、いいむろ):今回、新作をつくるにあたり、岩崎さんやアイホールからキーワードとして「家に帰る」「家にあるもの」という提案をいただきました。そこで、そのキーワードを中心に即興を繰り返し行い、たくさんのピースをつくりました。出てきたアイディアは次の何かに使おうと思えるぐらいたくさんあって、とてもいい時間を過ごせたのですが、散らばったピースを作品として、どう一本の串刺しにするかで苦労しました。
岩崎:マイムなので、基本的に言葉は使わない。でも、物語的な世界観はあるんですよね。
いいむろ:ジブリッシュ[注1]という手法で声を出すキャラクターはいるのですが、意味のある言葉は発しません。あと、子どもたちにギャーギャー騒いでもらえるシーンをつくりたいと思っています。例えば、「このポーズをしたら“かえる”って言ってね」みたいな簡単なルールをつくるとか。
岩崎:参加型ですね。
いいむろ:舞台上と客席との境目をなくしていくことを目指して創っています。
岩崎:対象年齢を3歳児以上、つまり未就学児も対象にした新作をお願いしたのですが、これはアイホールとしても画期的です。私も何作か子ども向け作品をつくったのですが、言葉で伝えようとすると3歳児は難しいんですよね。マイムの場合は、そこを乗り越えていけるというのが素敵ですね。
いいむろ:3歳からと設定していますが、赤ちゃんでも大丈夫だと思っています。子どもも大人も楽しんでいただけるように、作品にいくつかのレイヤーをかけた構造にしています。いちばん年齢層の低い子どもたちには、目の前に出てくるトリッキーなもの、例えば風船や人形を面白いなぁと感じてもらいたいし、その次の段階にストーリーがあってそれを楽しんでくれる年齢層がいたり、親の世代に対しても、大人だからわかることを入れて、ちょっとワクワクしてもらおうと、こういう二重三重構造にしています。

[注1]ジブリッシュ…でたらめ言葉・ちんぷんかんぷん語。口から出まかせの、まったく意味のない言葉のこと。

 

■マイムによる冒険物語

岩崎:言葉を用いていないということでは、ストーリーはそんなに複雑ではないとお見受けします。どういったお話になりますか?
いいむろ:「家にかえる」がテーマになっています。僕が演じる“王子”が家に帰るまでのお話です。だけど、王子はすぐにそのことを忘れてしまう。そのうえ帰る途中に、泥棒に大事なカバンを盗まれたり、ボールを探しているお姫さまに出会って巻き込まれたりもします。お客さんや子どもたちに「帰る」ことを思い出させてもらい、泥棒やお姫様も協力して、王子が家に帰れるようにもっていくというストーリーです。
岩崎:波乱万丈の冒険物語ですね。いいむろさんは、今までも子どもを対象とした作品を発表されていますよね?
いいむろ:はい。幼稚園を巡演するソロ作品もありますし、一昨年には「いいむろなおきマイムカンパニー for KIDS」として『走れ! 走れ!! 走れ!!!』という小学生向けの作品をつくりました。ただ、今回のような、年令問わず、赤ちゃんから大人まで誰でもお越しくださいというのはカンパニーとしては初めてですね。
岩崎:参加されているカンパニーのみなさんの様子はどうですか?
いいむろ:みんな楽しみながら取り組んでいますね。ただ、僕たちは大人なので、つい、複雑にやってしまいそうになる。それをなるべくシンプルな演技で、かつ王道で進めていこうと、度々立ち返りながらやっています
岩崎:違いはないと思いますが、対象が大人である公演と子ども

写真:堀川高志(kutowans studio)

である公演について、違いがあるとしたら何でしょうか?
いいむろ:創作する気持ちのなかでは違いはないです。ただ、小さい子たちが目にみえて面白いと感じてもらえることを中心に創ったという思いはあります。表現として浅い深いではなく、少し複雑なことや順序立てて結末までが長いものは、今回あえて避けるようにしました。長いものは大人は耐えられるんですけど、子どもを対象にするため「この答えがこれである」「このきっかけがこれになる」と、ひとつひとつをわりと小さなタームで繰り返していくようにして、最終的に上演時間45分にしました。
岩崎:アイホールで上演される作品は、年間本数でいうと台詞劇が圧倒的に多いです。ダンスも少しありますが、マイムだけの公演はすごく少ない。マイムの強みや他の表現方法との違いを教えていただけないですか。
いいむろ:僕が普段やっていて感じていることですが、マイムという表現は、台詞芝居よりも、少し角をなくす、範囲を広くすることができると思っています。でもダンスほど抽象的にならない。その隙間みたいな感じで、抽象的な表現から具体的な表現までをわりと無段階で行ったり来たりできると思っています。ジェスチャー的にはっきりと「カバンを失くした」と見せることもあれば、アイ・コンタクトや間(ま)の取り方で何かを感じてもらうこともあります。だから、やっている者としては、ダンサーよりも身体を動かしていこう、芝居の役者たちよりもドラマティックにいこうという思いは、心のどこかにありますね。

 

■童心に戻って

岩崎:今作の見どころや、ここを工夫しているというところを教えてください。
いいむろ:見どころはたくさんあります。工夫というか挑戦しているのが、蛙のパペットのシーンです。今回、ひとつの人形を出演者三人で操っています。文楽と同じですね。さらに、操っている出演者とパペットである蛙自身もからみあいます。人形劇というと、操り手が見えていても“見えていない”体裁にしなければならないというジレンマが生じますよね。でも、蛙にとっては、自分の後ろにいる操り手も出演者として共演しているという感覚にさせたい。だから今、僕らは“演じながら演じさせる”ということに挑戦しています。
岩崎:腹話術師が人形を使いながら自分と語ったりしますが、その言葉を使わないもの、浄瑠璃にも近しいものという印象を受けます。新しいですね。
いいむろ:確かに、三人で行う腹話術みたいなものですね(笑)。そして、舞台上に人形が立っていると、それだけでキャラクターがあって、この人形はどう動きたいのかを考えないといけないわけです。操る三人が同じキャラクターをイメージしていないと、手の動きや足の動きが変わってくるので、そのあたりが難しいですね。
岩崎:今回の公演は、身体ひとつというわけではなく、小道具もたくさん出てくるんですね。
いいむろ:カバンや傘や新聞紙といった日常的に使うものが多いです。小道具は、観劇後、家に帰ってからも遊べそうなものをイメージして使っています。あと、ダンボールの箱で2m50cmぐらいのロボットを組み上げたいと思っています。これは、僕が子どものころ、巨大ロボットをつくりたくて材料を色々集めたんですけど、なかなかできなかったという経験がもとになってます。子ども心に、大きなものをつくりたいという創作意欲があったんですね。ダンボールってロボットに見えるなと思い、今回取り入れてみました。
岩崎:童心に戻って、創作している感覚ですね。
いいむろ:子どもの頃の気持ちとか、幼い頃の憧れを思い出す、いい機会になっています。この作品は、子どもたちの反応も計算にいれてつくっていますが、正直、生の反応をみないとわからない部分もあって。稽古をしていて、みんなで「これ、面白いね」と言いつつも、これがちゃんと舞台から伝わるかどうかは、楽しみと不安とドキドキがあります。
岩崎:現場で手ごたえのある”面白い”という空気は伝わりますよ。本番で、子どもたちの反応のなかで、何が生まれていくか楽しみですね。
いいむろ:いい意味で、どう転んでいくのか、楽しみです。

(2019年7月 アイホールにて)


【公演情報】
AI・HALL自主企画 「みんなの劇場」こどもプログラム
いいむろなおきマイムカンパニー
『かえるの?  王子さま』
作・演出・振付|いいむろなおき
2019年
8月10日(土)11:00/15:00
8月11日(日)11:00/15:00
公演詳細