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2022年度次世代応援企画break a leg プロトテアトル稽古場レポート

次世代応援企画break a legの連動企画として、本企画の選考委員でもある三田村啓示さんが、今回選出された努力クラブとプロトテアトルそれぞれの稽古場を訪ねた様子をレポートとしてお届けいたします。第二弾は、6月11日・12日上演のプロトテアトル『レディカンヴァセイション(リライト)』です。

 

5月15日(日)15時頃、稽古場である大阪市北区・大淀コミュニティセンターに到着。初のキャスト全員揃っての通し稽古を控え、倒壊したビルに閉じ込められた警備員チーム・大学生チーム・自殺志願者チームが一堂に会する、ラストシーンの稽古が行われているところだった。ペレイラ氏からの指示や感想をもとに、台本上に書き込まれている情報が少ないある登場人物のバックボーンや、ラストシーンのある効果について、どのようなイメージ・リアクションになるのかなどキャストからも質問や意見が上がり、ディスカッションが自然と始まる。約1時間の稽古後、作・演出のペレイラ氏からは、

 

「皆さん今までずっと割り稽古だったので、他の人の芝居やシーンなど見れていないし、僕自身も全体の流れまで見えていないと思うんですが、まだ芝居を固める時期ではないと思いますし、この作品の核が出来てくるのはこれからだと思います。まずは楽しんでやってください」

 

そう、今日の時点で本番までまだ4週間ほどある。

通し稽古は17時からオンタイムで開始、通し準備を兼ねていったん休憩時間に。

 

「(他の作品も)今まで何度か再演はやってきたんですが、全て初演と比べて1ミリも同じ部分がなかったんです。その点、今回はちゃんと「再演」しようと考えてはいるんですが、僕の興味の対象も移っていて、初演の時にやっていたことのもっと向こう側に行きたいですね。あと、今のメンバーと初演時のメンバーが似てるけどどこか違うということもありますし、題材やテーマ、台本をそのまま使うのではなく、ちょこちょこ(台本を)変えているんですけど、まだ変えようとは思っています」

 

「声をどう響かせるか。アイホールの高い天井とどう戦うかが仕事」

 

と言うペレイラ氏。舞台美術の大枠はほぼ決まっている模様で、稽古場の床にはアクティングスペースが縮尺で再現されている。そして自然と舞台美術の話に。これまでにアイホールで観た演劇作品で印象に残っている舞台の使い方について。燐光群、ニットキャップシアター、dracomなどなど… 

ちなみに大阪市立芸術創造館での初演時(2019年)の舞台美術は、劇場にある平台を全て使ったとのことで、かなり建て込まれていた印象があった。転じて今回の再演は「色々悩んだ」が、「元々はツアーできるような作品にしたかった」ので必要最低限でいきたい、とのこと。むしろ、初演の方が「美術がああなるとは思わなかった」ようで、今回の再演・リライト版が本来の『レディカンヴァセイション』と言えるのだろう。

 

これまでの稽古について俳優の岡田氏いわく、「先週くらいにようやく全員が直接顔を合わせて、はじめましての挨拶が済んだ」とのこと。初演の稽古場では常に俳優全員がいたが、再演はコロナ禍を考慮して、シーンごとに必要な俳優だけを集める割り稽古の形で慎重に進められてきたようだ。

 

「ずっと割り稽古のみだったので、どういう流れでラストシーンにつながるのか自分でもよくわかってないんです。読み合わせ以外で、全員で動きもついて通すのは初めてですね」

「自分もだけど、今日まで俳優はストレスフルだったと思います、自分のシーンしか知らないから」

「(コロナ禍にまつわる演劇の様々な変化について)それは決して衰退ではないと思います」

 

と、演出席で語るペレイラ氏の前には、自身の物だという複数のパソコンやタブレットが並んでいる。それぞれword用、メモおよび台本PDF閲覧用、ストップウォッチ兼ネットに接続されている連絡事項などの確認用、と大きく分けられている模様。そして場面転換の音楽も自身でiPhoneから流している。これまでの演出助手の経験や、近年俳優としてレギュラーメンバーに定着している庭劇団ぺニノで必要とされるような、膨大な数の小道具の段取りをスムーズにこなしながら芝居をしたり、厨房のセットで実際に料理をしながら芝居をするなどのマルチタスク処理の経験が、自身の演出の際にプラスになっているのかもしれないし、そういうのが楽しい、とペレイラ氏。

また、稽古場の隅にもノートパソコンとビデオカメラが鎮座しており、これで常に稽古場の映像を撮影して記録しているとのこと。西中島南方の稽古場の際はそれをネットにつなげて生配信しており、そこを多忙なスタッフや海外在住の演出助手(!)が訪れることもあるらしい。そう、この座組、クレジットを見ていただければわかるのだが、演出部として総勢4名の演出助手がいる。その重要性を語るペレイラ氏。大まかな役割分担としては、稽古や通し稽古を観て感想や意見などのフィードバック・小道具・プロンプなどに分けられるそうだが、どうしてもトップダウンで閉鎖的になってしまいがちであり、それ故の問題が顕在化してきているようにも感じられる演劇作品の創作環境について、コロナ禍で一気に進んだリモート化も活用して外からの多角的な視点を導入し、風通しを良くしたいという意図があるようだ。

会話は尽きないがそうこうしているうちに17時となり、第1回通し稽古が始まった。

 

笑いが絶えない賑やかなムードの中、通し稽古終了。上演時間は約1時間50分。

上演時間は今回より長くなることはないと思う、と言うペレイラ氏。

 

「個人的には点と点がつながった感じがしました。個別のシーンで観たら(他と)つながるのだろうか、と思っていたところもありましたが、通しで観ると全体として同じ方向を向いていることを認識できて、楽しんで拝見させていただきました」

 

続いて、通し稽古のフィードバックが始まる。

 

「稽古場のサイズの問題かもしれませんが、演者同士のボリュームバランスが違うところがある、特に物理的に遠い距離でしゃべっている設定の役についてはボリュームバランスを調整・確認していきたい」

 

など、通し稽古での俳優個々の演技、動作や台詞のニュアンスや段取りへの細やかなオーダーが続く。ただいわゆる一方的な「ダメ出し」ではなく、俳優からもなぜそうなっているのかの説明や理由、ペレイラ氏への質問や提案などが積極的に出る、双方向の検証の場になっているのがとても良い。衣裳の確認後、初めて全員が揃ったこともあり、主に終盤の全員登場シーンをさらに返し稽古し、稽古は終了となった。

 

さて、「ちょっと笑いに走りすぎていたかも」というフィードバックもあったものの、笑いが頻繁に起こっていた今日の通し稽古を観て、(定点映像とはいえ初演も観たのだが)もしかしたら私は勝手にこの『レディカンヴァセイション』に偏った先入観を持っていたのかもしれない、と思った。確かにチラシ裏面には「大きな地震により、山の奥深くのとあるビルに生き埋めになった人たち」による「極限状態の人間を描く」会話劇とあるが、本作はそのような状況に置かれた人々をリアルに描く重苦しい劇、ではない。ペレイラ氏自身も語っていたが、「会話」という営みを描くことの方にフォーカスが絞られた、ある種抽象性が高い、どこか滑稽ですらある「不条理劇」なのだ(実際、初演時は客席で大きな笑いも起きていたようだ)。更なる改稿が重ねられ、これからどのように進化するのか期待が高まる。

 

それにしても最後のbreak a leg、コロナ禍という状況故なのか偶然にも、テイストは異なるが「会話」にフォーカスを絞った作劇を行う二団体が揃った。記者会見にて元アイホールディレクターの岩崎氏が、努力クラブの印象として“ゴツゴツしたイシツブテ”みたいな会話、プロトテアトルの印象として“精密な会話劇”と語られていたが、両団体の稽古を覗いてみて、上演される作品はもしかしたら逆の印象になるのかもしれない、とも感じた次第。その結果はぜひ劇場で確かめていただきたい。皆様のご来場、心からお待ちしております。

 

 

(2022年5月 大阪にて) 

 

文:三田村啓示(break a leg選考委員・舞台俳優)


☆公演情報

次世代応援企画break a leg

プロトテアトル 第11回公演『レディカンヴァセイション(リライト)』
作・演出|FOペレイラ宏一朗
2022年6月11日(土)・12日(日)
公演詳細

次世代応援企画break a leg共通ページ
※関連企画「試作と努力、舞台美術」についての詳細あり。