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平塚直隆(オイスターズ)インタビュー

 

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2013年「次世代応援企画break a leg」の参加団体として、『日本語私辞典』でアイホールに初登場した名古屋の劇団「オイスターズ」。1月22日~24日に新作『この声』で、再登場します。座付作家・演出家の平塚直隆さんにディレクターの岩崎正裕がお話を伺いました。


 

■タイトルを「五感」で“しばる”こと

岩崎:「五感シリーズ」と銘打っていますが、そこから今回の作品についてお話しいただけますか。
平塚:五感とは人間が感じる五つの感覚のことです。僕は、書きたいことが溢れでてくるタイプではないので、書くことを探す作業から始めるんです。近年は題名に“しばり”をつけることにしています。「漢字一文字」とか「ひらがな7文字」とか。僕の場合、まずタイトルを決めてから、これは一体どういう話なのかを考えていく方法をとっています。この「まずはタイトルをつける」というのは、僕が強く影響を受けている北村想さんの著書に書かれていて、それを実践しています。この流れで、今年の“しばり”は「五感」にしました。そうしたら、五作品はつくれると思いまして(笑)。
岩崎:今回で何本目ですか。
平塚:四本目です。シリーズの作品内容が繋がっているわけではなく、一本一本が独立した作品になっています。最初が嗅覚を使った『あの匂い』という作品。次が『その味』という味覚の話で、視覚を扱った『みるみるうちに』は外部団体に書き下ろしました。そして今回の『この声』が聴覚で、このあと外部に書き下ろす作品で触覚を扱います。
岩崎:書いた順番は何か意図があるの?
平塚:書きやすい順です(笑)。匂いは記憶との結びつきが一番強いと聞いたので、ノスタルジックな話が作れそうだと思ったのが最初です。オイスターズの本公演では『あの匂い』『その味』と指示語を使っているので、今回のタイトルも『この声』としました。
岩崎:つまりは、「聞こえるもの」としての「声」というわけですね。
平塚:そうです。

 

■『この声』で企てる仕掛け

平塚直隆
平塚直隆

平塚:タイトルが決まると、次は「この声」ってどんな声かな、どういう話かなって、漠然と考えはじめるんです。最初は、誰かがどこかに閉じ込められていて「助けてくれ~」と声を発しているのに、誰も助けてくれないという状況を考えたんです。だけど、それよりも周りに人がいるのに、主人公がどんなに話しかけても無反応だったり、全然伝わらなかったり、返事が返ってこないような状況のほうが面白そうだと思い、こっちの方向性で進めることにしました。
そこで、ゾンビの世界になっている設定にすればそういう状態をつくれると思い、フェンスに囲まれた高校のグラウンドを舞台に、ゾンビたちがそのフェンスをガシャガシャしていて、それに向かって主人公が「皆さん落ち着いてください!」と声をかけまくる芝居にしようと思いました。でも、これでは主人公だけが喋りっぱなしになってしまって、ちょっと書きづらいことに気づきまして(笑)。最終的には、高校の美術準備室を舞台に、美術教師が絵を描いていたら、一人の女子生徒がやってきて、「私の友達がゾンビになりそうなんです。どうしたらいいと思いますか」と相談にくるところから始まる物語にしようと落ち着きました。
岩崎:グラウンドの周りにフェンスがあって、ゾンビに囲まれているところって、『ウォーキング・デッド』(*1)の雰囲気がしますね。

 

 

*1=2010年より放送されているアメリカのテレビドラマ。ゾンビによって終末を迎えた後の世界を舞台に、少人数の生存者たちが安住の地を求めて逃れの旅を続ける物語。現在はシーズン6まで続いており、日本でも人気を博している。

 

 

oysters_2705平塚:美術教師はそもそもゾンビを知らないので、女子生徒はまず説明をするんです。健全な人がゾンビに噛まれるとウイルスに感染してゾンビ化すること、それも噛まれた途端になるのではなく、時間をかけてゆっくりとゾンビになっていくこと。最後は意識が無くなり、一度死んだあとにゾンビとして生き返ることなどです。
その生徒の相談は、「私の友達がだんだんとゾンビになりかけている段階で、ゾンビになる前に殺してほしいと頼まれた。私は彼女と友達だから今の状態ではとても殺せない。ゾンビになってから殺したい。先生、どうしたらいいですか」という内容なんですね。教師は、本当は絵を描きたいという自分の気持ちを優先したいんですけど、教師という責任感でもって、「ゾンビになってしまう前に縛り付けておいて、ゾンビになったところを殺したらいいんじゃないか」とアドバイスをするんです。すると、「わかりました」といって、生徒が去って行きます。
教師が絵の続きを描いていると、別の女子生徒がやってきて「友達が、私の友人をいじめているんですけど、どうしたらいいですか」と相談されます。よくよく話を聞くと、さっき教師がアドバイスした生徒のことだったので、「友達がゾンビになる前に縛ったらいいって、アドバイスした」と言うと、その生徒は「そういうことなんですね」と納得して去って行くんです。
その後、また別の女子生徒が「私は死んだらどうなるのか教えてほしいんです」と相談にやってくる。それで教師は「死んだら天国というのがあってね・・・」と答えていく。
オイスターズそのうち、どうやら三人の女子生徒は別の場所で一緒にいて、ゾンビになる話をしているようだということがわかってきます。一人ずつ教師のところへ相談にやってきて、懇切丁寧にアドバイスを受けて、生徒は納得して去って行くんです。どうやら向こうでは三人で別の話し合いもされているようで、生徒が教師のもとに相談に戻ってくるたびに、なぜか内容が少しずつ変わっている。「先生は確かにそうアドバイスしたけど、そっちの話し合いでは一体どうなっているんだ。ここで三人が一緒に話をしてくれればいいのに」と思うんですけど、一人ずつしか来ないから話が余計にこんがらがっていく…。
そして、それが繰り返されることで、どんどん教師自身が窮地に陥っていくという設定です。ゾンビになるかならないかという問題を根底に置きつつ、教師と生徒との会話のなかで、主体と客体が逆転するような仕掛けをつくりたいと考えています。
岩崎:平塚さんの「語り」って、とっても真摯なスタイルだよね。今の話をもっともらしくいうなら、「コミュ二ケーションの断絶の話です」とまとめることもできるんだけど、平塚さんはそう言わない。言葉でまとめたって戯曲にはならないから、順序立ててそのシチュエーションを説明することしか劇作家ってできないんですよね。だから、本当に骨の髄まで劇作家だって感じがします。

 

■「この声は届いているのか」を主軸に

岩崎:美術準備室という、すごく密室性がある空間を選んだのも面白くなりそうですね。
oysters_2707平塚:僕の高校の担任が美術の先生でした。授業が終わったあともずっと絵を描いている先生で、どんな絵を描くのだろうと思って見たら、ヌードだったんですよ。その印象がものすごく強く残っています。
岩崎:僕も『空の絵の具』(1996年)という作品で美術準備室を舞台にしたことがあります。美術部員だった人たちが準備室に集うという同窓会ものです。そのとき思ったんだけど、美術準備室ってエロチックなんだよね、空間が。美術室という開かれた教室では交わされない会話が、準備室では交わされそうだと思わせる。

平塚:あー、そうかもしれないです。教師と女子生徒の会話も、やっぱりちょっとエロチックなものになっちゃってます。

岩崎:でしょう(笑)。男の先生が絵に没頭していて、そこに女子生徒がやってくるというシチュエーションだけで、もうエロチックですよ。僕が今回のシチュエーションを敢えて批評的にいうと、まずエロチック=生命があります。そこに「ゾンビ」という死に傾斜していくキーワードが出てくる。つまり、生と死のせめぎ合いのドラマなのではないかと思うんです。あと、外から持ちこまれる情報が全部違うっていうのは、芥川龍之介の『藪の中』の構造ですよね。
平塚:もう、まさにそうです。観客には、先生の立場で観てほしくて、それで混乱に陥れられていく構図にしたいと思っています。美術教師の「声」は女子生徒に届いているのか、僕は日本語を喋っているけど生徒には伝わっていないのではないか、どれだけ話しかけても相手には届いていないのではないか、そういう方向に持っていきたいと思っています。
岩崎:伝わらない、かみ合わない会話って実際にありますよね。あと、実際の先生が見たら、ある種の「寓話」として、教師と生徒とのディスコミュニケーションにみえる可能性もあるかもしれませんね。ここからの展開が興味深いです。
平塚:どうやって会話だけで相手に思い込ませたり、見ているお客さんを信じ込ませるかということは、特にこだわってつくっていきたいと思っています。

 

■より多くのお客様との出会いを

岩崎:オイスターズが関西にいらっしゃるのは、今回で何回目ですか。
平塚:本公演としては、2013年に『ドレミの歌』(アトリエ劇研)、『日本語私辞典』(アイホール)、14年に『どこをみている』(大阪市立芸術創造館)に続いて今回で4回目です。その間に、ABCホールの「春の文化祭」に何度か参加しています。
岩崎:今回も四都市ツアー。それもアイホールで幕を開ける。ホームグラウンドじゃない都市の初演って大変ですよね。
平塚:もう、ドキドキしていますね。
岩崎:劇団の方針としては、もっと拡張していこうとお考えですか?
平塚:ツアーは続けたいと思っています。四国にも行きたいし、九州にもまた行きたいです。
岩崎:「過剰なまでに会話劇」「ライトでドライな不条理劇」を謳っていますけど、こういう味わいの作品は名古屋らしいのではないかと思うので、ツアー各地で是非定着してほしいです。
あと、気になっていたんですが、「はじめて割」というのは?
平塚:「オイスターズを初めて観る人は前売料金を半額にします」というものです。
岩崎:えっ、すごい。どうやって見分けるの?
平塚:皆さんの良心を信じて、自己申告です(笑)。あと、初めてじゃないお客様も、初めての人と一緒に予約されると、「はじめて割ペア」として二人とも半額になります。
岩崎:ちょっとそれすごいですね。これは、どんどん活用していただきたいですね。
平塚:できるだけ多くの方に観ていただきたいので、こういう取り組みをすることにしました。この機会に是非、オイスターズを観ていただければと思っています。

岩崎正裕(アイホール・ディレクター)
岩崎正裕

岩崎:『この声』というタイトルを聞いたとき、僕はまず「声」という単語に意識が向きました。例えば、日々世間から目を向けられずにコツコツ頑張っている僕たちの「この声」とか、高校演劇なら生徒たちの声にならない「この声」みたいな。逆に50代60代はこのタイトルから思想的なものを嗅ぎ取るでしょうし、チラシのビジュアルも少し昔の時代の写真がたくさん使われているから、かつての高度成長期~バブル期を生きた人の大人になってからの嘆きとしての「この声」とか。本当に色々想像しました。だけど、今日、お話を聞いて、聴覚であることがよくわかりました。そうした受け手の予想を悠然と裏切っていくのが、オイスターズらしいと思いますし、とても興味深いです。まさかゾンビの話だとは思わなかったですよ。面白い作品になることを期待しています。
平塚:ありがとうございます。僕たちも、アイホールにはもう一度来たかったので、楽しみです。笑っていただける、楽しんでいただける作品にしますので是非見に来て下さい。

 

(2015年12月、大阪市内にて)


 

【提携公演】
オイスターズ『この声』
作・演出/平塚直隆

平成28年
1月22日(金) 19:30
1月23日(土) 14:00/19:00
1月24日(日) 12:00/17:00

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