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北九州芸術劇場クリエイション・シリーズ『まつわる紐、ほどけば風』関係者インタビュー

※本公演は新型コロナウイルス感染症対策に伴い、公演中止となりました。


アイホールでは3月7日・8日に共催公演としまして、北九州芸術劇場クリエイション・シリーズ『まつわる紐、ほどけば風』を開催します。公演に先駆け、作・演出の岩崎正裕さん(劇団太陽族)と、北九州芸術劇場プロデューサーの龍亜希さんと黒崎あかねさん、出演者を代表して寺田剛史さん(飛ぶ劇場)と町田名海子さん(創造集団ちいさなクルミーノ/劇団「劇団」)に、本企画と本公演ついてお話しを伺いました。


■北九州芸術劇場が手がけるオリジナル作品

龍:北九州芸術劇場で製作した作品を、アイホールで上演するのは実に15年ぶりです。当劇場は、2003年8月にオープンし、今年で17年目を迎えました。「創る」「観る」「育つ」「支える」という4つのコンセプトのもと、演劇やダンスの舞台芸術を中心とした様々な事業を展開しています。「創る」においては、開館当初より「地域」を意識し、大事にしながら作品を創作、発信してまいりました。今回、これまで培ってきた経験やノウハウを活かしながら、現場のスタッフがよりアーティストと密に関わり、その関係性を築きながら作品創作を行う枠組みとして、2018年から「クリエイション・シリーズ」をスタートすることにしました。このシリーズは、劇場とアーティストが2年間タッグを組み、まず1年目には、地域の方々や地元で活動する表現者の皆さんとの交流や、作品創作に向けた準備やリサーチなどを行っていただき、地域を知ってもらいます。続く2年目には、北九州に実際に滞在していただいて、オリジナルの作品を作っていただくというものです。その第一弾として、今回、当劇場の開館当初から様々な形で関わっていただいている岩崎正裕さんをパートナーとしてお迎えし、作・演出をしていただきます。また、本作品のプロデューサーは北九州芸術劇場の舞台事業課の黒崎あかねが務めます。
黒崎:2003年の劇場オープンから舞台事業課に所属し、市民参加の企画や劇場が企画制作する創造事業の制作業務を中心に携わっております。岩崎さんとは、開館翌年に上演した『冒険王04』で初めてご一緒させていただきました。この作品は、北九州を拠点に活動する劇団「飛ぶ劇場」の代表で、当劇場のローカルディレクターでもある泊篤志の戯曲を岩崎さんの演出で2004年に上演したものです。大変好評をいただき2007年には『冒険王07』として再演しました。その後も岩崎さんとは、劇団太陽族での公演や、講師としても北九州にお越しいただき、現在までご縁が続いています。今回、10年以上続くご縁のなかで初めて、新作を書き下ろしていただきます。
2018年4月に始動した「クリエイション・シリーズ」の1年目では、岩崎さんと、北九州の町や島を一緒に歩いたり、文化施設へ訪問したり、地域の演劇人や町に住む方たちにインタビューを行なってきました。また、当劇場が企画制作する公演の視察や事業にも講師としてご参加いただき、地元劇団の公演の視察に行くなど様々な角度から北九州に触れていただき、岩崎さんが今描きたいモチーフが何であるかを見つめてきました。そのなかで今回、キーワードとして“女性”が出てまいりました。

 

 
■大正時代の女性像からインスピレーションを得て

岩崎:北九州には月一回くらいお邪魔しまして、歴史的なことも教えていただきました。八幡製鉄所の工場見学で実際に赤く焼けた鉄が通るところを見せていただいたり、山登りや島にも行かせていただきました。また、北九州で生きていらっしゃる、たくさんの世代の女性から話を聞く機会もいただきました。そういう経験から題材を絞り込み、今回、「女性」というキーワードで描くことにしました。
僕、関西で生きている女性と九州で巡りあう女性とでは、佇まいが違うなと感じておりまして。関西の女性の特徴は割とズケズケと物を言う、土足で踏み込んできてボクシングで言うとところのスウェイバックでよけるみたいな、それに合わせて会話は弾むんですけど、関西の女性は本音じゃないことまで言っている感じがします。それと比べると、北九州の女性には嘘がない、程よい距離感をとる、特に男性に対してものすごく気遣いをしている印象がありまして、その違いはなんだろうと気になりました。おそらくすごい本音で関わるんだけど、男性をたてるみたいな空気が九州には残っていて、だから男性がつけ上がってるんじゃないかっていう気もしますが(笑)。九州男児という言葉もありますし、もしかしたら男性が力を持っていて、女性たちはすごく苦労してるんじゃないか、その本音は何だろうと考え始めたのが、今回のきっかけでした。
そのときに、小倉で数々の作品を生み出し、高浜虚子の『ホトトギス』の同人で、大正から昭和にかけて活躍をされた女性の俳人・杉田久女の存在を、北九州市立文学館などで知りました。“台所の俳句”と呼ばれている分野にある彼女の句で、「足袋つぐや ノラともならず 教師妻」というのがあります。彼女の夫は高校の美術教師ですが、元々絵描きだったんです。なのに、先生になったら一枚も絵を書かず、自分はその妻として家を出ることもできないで、旦那の足袋の破れを繕っている、という句です。「そうか、ノラか」と思いました。イプセンの『人形の家』のノラです。2018年に、松井須磨子をモチーフにした『Sumako~或新劇女優探索記~』を作ったこともあり、大正時代の女性がいかに男性社会から押さえつけられていたのかにすごく興味を持っていまして、そんなときに、北九州で、同じ題材で句を作る杉田久女と出会ったわけです。タイトルの『まつわる紐、ほどけば風』も、杉田久女の句「花衣 ぬぐやまつはる 紐いろいろ」に着想を得ています。この句は、花見から帰ってきて、綺麗な肌着を脱いだら、紐がまとわりついてくるわ、という句なんですが、当時、女性にしか作れない俳句だとすごく評価されました。この「まつわる紐」を、現代社会を生きる女性たちが、紐のようにまとわりついてくる社会的な様々な状況に対して苦心していると捉え、まつわる紐をなんとか解いたら、いい風が吹くんじゃないか、という思いをタイトルに込めました。現代における女性の労働環境や社会での扱われ方が、まだまだ先進的ではないこの国で、九州の女性たちはどんなことを考え生きているかをドラマ化したいと思っています。

 

 

■現代“女性”の生き様を描く

岩崎:物語は、九州で生きている30代から40代の女性三人を中心に展開します。北九州にあるボルダリングジムで出会った三人は仲良くなって、それぞれの家でお茶会などを開きます。一人は古い日本家屋に住んでいて間もなく五十歳になるんですが、「シングルで生きていく」と思っている。もう一人は、北九州で小劇場の女優をやっていて、夫は総合病院に勤める医者。あと一人は、不動産会社で職場結婚をして、子どもが欲しいので不妊治療に取り組んでいるのだけれども、金銭的にも肉体的にもかなり辛い状況。この三人の話を軸に物語が動いていきます。それともう一つ、現代を描くには男女の二元論だけで語ってはいけないと思い、今、社会的にもいろいろ問題提起がされているLGBTのことも描きます。ある大学の軽音楽部の女の子が後輩の女の子から告白されます。彼女は彼氏がいるのに異性と付き合うことがしっくりこないと感じている。女性同士の恋愛の行方がどうなるのか、医者の夫から自立したい女優はどうするのか、不妊治療の夫婦はどうなるのかが展開していきます。また、シングルで生きようとする女性の元には、大正時代の女性が現れて対話し、平成・令和時代の女性の悩みについて大正時代の女性が相談に乗るという、ちょっと幻想的ですけれど、時代を超えた視点もあります。
 また、ボルダリングジムで出会うという着想の中には、女性が自らの高みを目指して壁をよじ登っている様を描きたいと思ったからです。様々な問題を抱えている女性たちが壁に取り付いて上へ上へと登っていく、そういう象徴的なシーンが作れないかと考えています。今を生きている女性たちが抱える問題は、大正時代に平塚らいてうが提示した女性の権利について、この国は実はまだそこまで到達していないのではないかと警鐘を鳴らす物語としたい、それについて、実際に現在に生きている私たちの生身でもって語られる物語にしたいと思っています。
また、この作品は『冒険王』でご一緒させていただいた泊篤志さんに、台本を北九州弁に直していただいて上演します。その地元の言葉のニュアンスが、その人たちの生活感覚に馴染んでくるのではと思っております。

 

 
■出演者について

黒崎:今回、出演者オーディションを行い、北九州在住の俳優を含め全国各地で活躍される俳優が集結しました。代表して、寺田さんと町田さんにお話しを伺いたいと思います。岩崎さん、まずお二人の印象はいかがでしたか?
岩崎:寺田さんは、やっぱりすごくうまいです。そして実力だけでなく、お人柄がすごく真っ直ぐで優しい。今まで北九州劇術劇場で作られたプロデュース公演にもたくさん出演されていて、2006年にアイホールで上演した『ルカ追走』にも出演いただきました。最初、関西の俳優陣が「寺田剛史って誰?」という雰囲気だったのが、稽古に来た瞬間に「こいつ、すごい」という空気に変わったことを覚えています。今回のオーディションはシード枠がなく、みんな横並びのスタートで、そのなかで申込番号のナンバー1番が寺田さんだった。このやる気にとても感動しまして。もちろんオーディションでもその演技は的確でした。寺田さんはいつも善い人の役をやっていることが多い印象なので、一度、女性を罵倒する台詞を言わせてみたいと思い、今回、妻に「体裁が悪いから劇団やめて」と言い出す医者の夫を演じてもらいます。
黒崎:寺田さんの新しい姿が見られるかもしれないですね(笑)。
岩崎:町田さんは、僕が大阪芸術大学短期大学部で指導した教え子です。学生の頃からすごく印象が強くて、もう6年も経っているのに覚えていました。オーディションでは、いろんな地域から腕に覚えのある俳優がワッと押し寄せてきたのですが、その中で見事に自分のできることをやったんですね。関西の小劇場で経験を積んでいたということもあるんですけれど、エコヒイキではなく厳正な審査の結果、スタッフ立会いのもと、町田名海子さんがいいと決まりました。彼女には大学の軽音楽部で後輩の女性に告白される先輩の役をやってもらいます。
黒崎:では、お二人にオーディションを受けようと思ったきっかけや、事前稽古の感触などをお聞きしたいと思います。
町田:私がオーディションを受けようと思ったきっかけの一つは、演劇活動を続けるなかで行ったことのない土地で作品作りをすることは難しいと感じていたので、地域に滞在しながら作品をつくることができるのはすごく面白いと思ったからです。もう一つは、作・演出が岩崎正裕さんということです。大学から演劇を始めて、そこで出会った岩崎さんのおかげで、いろいろな角度から演劇を知ることができ、役者をやるうえでの大きな基礎を作っていただきました。その岩崎さんと、新しい作品を作れるなら北九州にでも行こうという気持ちがありました。北九州は人柄も温かくて、ちょうどいい距離感というか、すごく懐かしい雰囲気がある場所なのでとてもワクワクしております。事前稽古ではワークショップに近いかたちで進みましたので大学時代を思い出し懐かしくなって(笑)。役者の皆さまもとても素晴らしく、新鮮な気持ちで参加させていただきました。
寺田:北九州を拠点に活動する「飛ぶ劇場」に所属しています。岩崎さんとは、2004年の北九州芸術劇場プロデュース公演『冒険王04』、2006年のAI・HALL+岩崎正裕『ルカ追走』、そして2007年の『冒険王07』とご一緒させていただきましたが、それ以来10年以上、一緒に作品を作る機会がなく…。今回、この「クリエイション・シリーズ」の作・演出が岩崎さんだとチラシで知り、これはもう受けるしかない、一緒にやりたいと思い、すぐに応募しました。
岩崎:それがナンバー1番(笑)。
黒崎:東京からいらっしゃる演出家からも「北九州のカリスマ」と呼ばれるような寺田さんが、こんなに前のめりで応募してくださり、すごい熱意を感じました。
寺田:北九州だけでなく関西で公演できるのも楽しみです。アイホールのラインナップを見ると、選りすぐりの作品が並んでいるという印象があります。だから、この劇場でやる作品はまあ面白いだろう、という目の肥えたお客様も多いのではないかと思っています。そういう意味では、ホームの北九州芸術劇場でやるのと比べ、ちょっとだけ緊張感があります。もちろん、舞台上でやることは変わらないですが。

2020年1月 大阪市内にて


【公演情報】
北九州芸術劇場クリエイション・シリーズ
『まつわる紐、ほどけば風』
作・演出|岩崎正裕
2020年3月7日(土)・8日(日)
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