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2021年度次世代応援企画break a leg 中川真一(遊劇舞台二月病)×西田悠哉(劇団不労社)インタビュー

令和3年度次世代応援企画break a legとして、遊劇舞台二月病『sandglass』(7月3日・4日)、劇団不労社『畜生たちの楽園』(7月17日・18日)がまもなく開幕します。

コロナ禍のなか、昨年からの延期開催となった今回、作・演出を担う、中川真一さん(遊劇舞台二月病)と西田悠哉さん(劇団不労社)に、今回の公演についてお話いただきました。

 

岩崎:この二劇団は、当初、令和2年6月に公演を予定していましたが、コロナの影響があり、令和3年度次世代応援企画break a legとして2021年7月に登場いただきます。一年越しの、満を持しての登場です。まず遊劇舞台二月病さんは、昭和の事件にこだわって取り上げていらっしゃる劇団です。その一貫した姿勢が素晴らしいと思いました。また劇団不労社さんは応募映像がべらぼうに面白かったんですよね。一場で全部やりきる芝居で、だんだん人間関係のグロテスクさが見えてくるのですが、見ている側がヒステリックに笑いたくなる部分もあり、西田さんの作劇術が確立していると思いました。

 

★遊劇舞台二月病


■”事件“描くきっかけ

『Delete』_撮影:小嶋謙介

中川:僕は毎作品、”事件“にこだわって書いているのですが、そのきっかけは、大学時代の友人がとある事件に巻き込まれたからです。朝のワイドショーで1週間ぐらい取り上げられるような大きなニュースで、その子は容疑者として報道されましたが、のちに不起訴となり今は普通に過ごしています。その事件のことで、僕も警察から電話で事情聴取をされたり、本人からも話を聞いたりしたんですが、どうも報道されている内容と実際の事件の間に隔たりがあるということをいたく感じました。しかし、インターネット上ではいろいろ書かれていて、第三者として事件のことを好き勝手に楽しんで、ただ娯楽として消費している人たちにとてつもない怒りを感じました。そうした経験がきっかけで、僕だけでも追い詰められて犯行に及んだ人の姿を描こうと考えてやっています。

 

■『sandglass』について

中川:今回の作品は、スタインベックの小説『二十日鼠と人間』をベースにした作品で、戦後の日本に置き換えて考えてみました。東京で実際にあった「とある役者の一家殺害事件」を取り扱っています。また、戦後の様子を知りたいと思い、兵庫県のある町で、90歳を過ぎた方々に「あの時代はどうだったんですか」と取材させていただきました。そうしたものをすべて一緒くたにして舞台に乗っけようとしているのが今回です。構造としては、事件が起こった屋敷のなかのパートと、屋敷の外のコミュニティである町の話を並行して描いています。犯行に及んでしまった男は、最初、その屋敷に作家見習いとして住み込んでいたんです。でも、書いても書いてもボツにされる。それは屋敷のある町のことを如実に語った物語で、そんな現実を語ったら悲しいことがたくさんありすぎて、そんな話は誰も求めていないという理由でボツにされていくんです。町の話は彼が書いている台本によって描かれる形で進んでいきます。

 

 

 

■取材からみえてきたこと

中川:取材する町を選んだ理由はいくつかあって、まず港町であること、進駐軍が在駐していたこと、今回の公演が伊丹なので兵庫県内であること、そして今回は芝居一座の事件がモデルだからです。その町には、かつて芝居小屋がたくさんあって、戦後も劇場と遊郭を中心にいち早く復興を果たしていて、”一座”というコミュニティと“町”のコミュニティの考え方の違いが垣間見えるのではないかと思ったからです。現代のコロナ禍において、演劇をやっている“内”からの見方と“外”からの見方との違いに通ずるんじゃないだろうかと思いました。取材した人たちに聞くと、「戦後のあの頃よりも今のほうが辛い」と口を揃えて言わはるんです。戦後のこともたくさん語ってくださったんですけど、阪神淡路大震災だったり、その町を襲った大水の話だったり、今の感染症もですけど。辛いことというのは、定期的に僕たちを襲ってくるものなんだと感じました。そして、今の僕たちが、戦後の大変さを思うように、戦後の人たちも今の僕たちのことを心配してくれたんじゃないかと思いました。過去から未来、未来から過去に、常に人は人を心配したり、応援したりしているんじゃないかと思い、そういうこともこの作品に詰め込みました。

 

★劇団不労社


■自らの手法を模索して

西田:僕は大阪大学の演劇サークル「劇団ちゃうかちゃわん」で演劇を始めたのですが、サークル活動の範囲外の公演を行う名義として2015年に「劇団不労社」を旗揚げして、年に1度のペースで公演を重ねてきました。当初は個人のプロデュースユニットとして運営していたのですが、大学卒業後に仕事と並行しながら公演を行うにあたり、個人で手の届く活動範囲に限界を感じ、2018年より大学時代の友人らを劇団員に加え、現在は計4名の団体として活動しています。

演劇にのめり込んだきっかけはつかこうへいさんで、当時の作風にも大きな影響を受けました。『熱海殺人事件』で卒業論文も書き、自ら演出を務めて上演もしました。ただ深く知るにつけ、ルーツや時代観や気質も異なる自分が現代でつかさんのような作品を上演することに違和感やギャップを感じ始めていた頃に、当時阪大の教授をされていた平田オリザさんのワークショップを受けたことで視野が広がりました。その後、大学卒業直前にウイングフィールドで行った公演で、つかこうへい的作劇法と平田オリザ的作劇法を自分なりに組み合わせて、熱量溢れるパワフルな芝居とリアリティのある脱力した芝居をひとつの舞台に上げてみようと試みました。やりたいことが混線し結果的にカオスな作品となりましたが、自分の作りたい作品像についての手がかりや手応えを得ることができ、現在の作風にも繋がっています。

 

■恐怖と笑いをコンセプトに

第五回公演『忘れちまった生きものが、』より 撮影:松田ミネタカ

西田:現在、作品コンセプトとして大切にしているのは「恐怖と笑い」です。もともとクエンティン・タランティーノ監督や深作欣二監督、北野武監督らの暴力映画が好きなのに加え、お笑いやホラーが好きなのですが、中でもこれらの作品群に共通する「怖いのに笑える」もしくは「笑えるのに怖い」領域に関心があります。人が怖がったり笑ったりする時、概してその情動は意識的ではなく反射的な形で発生するものだと思いますが、そこに人間の根源的な部分に触れる何かがあるのではないかと考え、恐怖と笑いが共存する領域を核にした作品づくりを行っています。

演劇作品として恐怖と笑いを表象する上で、観客が何をリアルと感じるか、リアリティの取扱いが重要になると思います。以前の公演では、「村八分」を題材にとある田舎町へ移住してきた家族と現地住民の軋轢を描いたのですが、最初はごくリアル、つまり我々が住んでいる現実世界と同じような因果律で劇世界が動いていると見せかけ、だんだん荒唐無稽でナンセンスな内容、つまり現実の世界では起こりえないことが起きる内容へとスライドさせ、観客の認識する世界の枠組みを操作する事を試みました。このリアルとアンリアル、現実と虚構の境界の取扱いが、自分の創作の中でいちばん意識していることです。

 

■『畜生たちの楽園』について

西田: “暴力”には広義の意味で、目に見える直接的・肉体的なものから、目に見えない間接的・精神的なものまで様々なレベルで日常に存在し、我々は常に何かしらの暴力に晒されながら生きていると言えますが、先ほど述べた恐怖と笑いと暴力は密接に結びついていると考え、最近は「集団暴力シリーズ」と銘打って作品を作ろうと思っており、本作もその一部となります。

今回の作品の大まかな物語は、とある特殊な理念を掲げる集団農場を率いていたカリスマ的な人物の亡き後、その娘が権威的なポジションにつくのですが、彼女は人より知能の発達が遅れており、世襲を発端に議論や闘争が巻き起こり内部が崩壊していくというものです。

この団体には参考にしたモデルがあって、幸福会ヤマギシ会という実在する農業団体です。その大きな特徴に「無所有一体」という理念があり、彼らは財産も含めた一切の個人の所有を放棄し、自然と調和・一体化することで平和で幸福な社会を作ることを目指しています。今回はそのヤマギシ会から着想を得た架空の集団農場における「信仰」を主題に据えた作品となります。宗教に限らず、人間は大なり小なり何かを信じないと生きていけない生き物だと思っているのですが、果たして私たちの信じているものとは何なのか、人間は本当の意味で何かを信じ切ることは可能なのかどうかを、動物的な本能や欲求に翻弄されて、理論と実践、思考と行動とが乖離していく人々の姿を通じて描きたいと思っています。

 

 

★質疑応答

Q.公演が一年間の延期になりましたが、台本の手直しはありましたか?

中川:一年前の時点で、プロットと台本の一部はあったんですが、延期になったことで総ざらいをしました。というのも、一年間、同じプロットを考え、悶々としながら取材も続けていたのですが、さあ書き出すぞ! となったら、筆が進まないんですよね(笑)。見直すと、描き切れてない部分や、説明することだけに頼っているシーンなどがあって、「俺は説明するために台本書いてんのか」ってどんどん不満がたまってしまい…。それで、書き直し始めると、主人公の男がものすごく嫌な奴になってしまったんです。でも、嫌なところをもっと書きたいって思うと、どんどん書き進めることができて、結果、エンディングが変わりました。最初は、観客のみなさんに、「この男、可哀そうやな」って思ってもらえればと思ってたんですけど、「こいつ、憎たらしいわ」って思ってもらえる本になった。予定していたエンディングとは違いますが、満足のいく仕上がりになっています。

西田:僕は普段、稽古をしながら台本を書いています。去年の時点では、大枠は決まっていたものの、実際の台詞に落とし込んで稽古することができていなかったので、台本は出来上がってませんでした。今まさに、稽古をしながら書き進めていて、明らかに去年とは違うものになると思います。というのも、僕がヤマギシ会に関して抱く印象が結構変わったからです。この題材を取り上げようと思った当初は、奇抜な発想を実践する集団としてやや好奇の目で見ていたのですが、この1年間を経て、この人たちが目指すコミュニティは、コロナ禍で露呈しつつある資本主義社会の限界を打破する有効なアイデアなのではないかと考えるようになりました。一方でコロナウイルスという目に見えない、コントロールしきれないものと対峙することで、そもそも人間が自然を含めたあらゆる事物を支配することの限界もあらわになり、ヤマギシ会のような試みは人間の無力さにどうアプローチできるのかという問いの要素も、今回の作品に反映したいと思うようになりました。これらの印象の変化は今回の作品に反映されてくると思います。

 

Q.どちらの作品も「同調圧力」に触れている気がしていますが、コロナ禍の前からそういったことは考えられていましたか?

中川:「私」の話をすればいいのに「私たち」の話をし始めるから、何かがいびつになっていくんじゃないかと。僕は地球に70億人の人がいるんだったら70億人全員がマイノリティやと思って生きるべきだと思うんです。主語を大きくすると、どれだけいいことを言ってもその考えを押し付けることになってしまって、どうしてもいびつになる。だから、個々の状況や置かれている環境が違うことを明示できるお芝居になればいいなと思っています。

西田:もともと僕は東京で生まれ、中学時代に富山へ引っ越したのですが、閉塞的な地方のコミュニティ特有の空気感は肌で感じた覚えがあります。自分とは異なる者を排斥するような差別意識や排他意識が生まれるメカニズムは、存続・繁栄を目指す動物である人間の生存本能として誰しも備わっているものだと思います。有事や非常事態になると、普段理性で抑えこまれているそのような本能的な部分がより露骨に表れるなあと、SNS上の発言や社会の動きを見て思い、人間もやはり動物なのだという考えが強くなりました。

 

Qアイホールという空間に対して、現時点の演出プランはありますか?

中川:アイホールの空間の広さと天井の高さがとてもいいなと思っています。お客さんが、役者のいない劇場の中空に視線を向ける、視線を上げられるようなお芝居にしたいです。そこは何もない空間だけど、その空間こそが大事に見えるような美術にしたいと思っています。

西田:このキャパシティの劇場で公演をするのは初めてなので、とてもワクワクしています。ある農場の一角を舞台に設定し、倉庫や家畜小屋を具象的に建て込み、箱庭的な舞台美術を作ろうと思っています。舞台を半面囲みするかたちで客席を設営して、舞台と客席の間に大きいフェンスを立てて、動物園の中を檻越しでのぞき込むような構造を考えています。アイホールは天井が高く、抜けた空間なので、その抜けの良さと閉塞感のギャップをつくりたいです。フェンスを通じて舞台上で起こる出来事と観客との間で生じる関係性について、演出的にも意識してアプローチしたいです。

岩崎:二作品ともいい感じでしんどい芝居になりそうですね(笑)。しんどい時期にしんどい芝居を見る機運が今あると思うんで、ぜひたくさんのお客様に見ていただきたいですし、ご期待いただけると嬉しいです。

(2021年6月 大阪市内にて) 


☆公演情報

次世代応援企画break a leg

遊劇舞台二月病 本公演『sandglass』
作・演出|中川真一
2021年7月3日(土)・4日(日)
公演詳細

劇団不労社 第八回公演『畜生たちの楽園』
作・演出|西田悠哉
2021年7月17日(土)・18日(日)
公演詳細